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2005年2月25日

工藤 千温さん(4)
株式会社ティージー・アイティサービス
計画部 戦略企画G グループマネージャー

工藤 千温さん工藤 千温さん
株式会社ティージー・アイティサービス
計画部 戦略企画G グループマネージャー
大学では小学校教員養成課程に在籍するものの、1991年株式会社ティージー情報ネットワークに入社。新人SEとして一から教育を受け、メインフレーム周辺基盤の維持管理業務を担当する。2度の産休後、1999年から運用用務の企画および全体調整業務に異動。2002年サポートセンターでリーダー職に。同年7月、サポートセンターを含む運用サービス部門が株式会社ティージー・アイティサービスとして分社化され、コールサポート業務アウトソーシング実施プロジェクトリーダーに。2003年上記プロジェクト完了と同時に現職となる。

現場のステークホルダーとの関係が最大のネックに

能登原
この対談では、プロジェクトの中でプロマネがいかに成長していったかをお聞きしています。このときは工藤さんにとって、まったく初めてのプロジェクトで、しかも相当にスケジュールが厳しかったですよね。プロジェクトマネジメント的には何が一番大変でしたか。

工藤
一番大変だと感じたのは、ステークホルダーとの関係ですね。すごく重要だけど、上手くやるのは難しいと痛感しましたし、実際に一番上手く出来なかったところだと思います。

能登原
それについて詳しくお聞きしてもいいですか。

工藤
このプロジェクトのステークホルダーは、例えば私たちの管轄部署である東京ガスの情報通信部をはじめ、私たちコールセンターにヘルプデスク業務を依頼しているアプリケーションの維持管理部門、そしてエンドユーザーですね。

それからもう一つは社内です。結局社内もエスカレーション先になっているからです。コールセンターで受けて一義的に対応しますが、それで解決できないケースは当社内のインフラ部隊がエスカレーション先になっているので、そういったところとの利害関係というか調整が大変だったんです。やはりステークホルダーの皆さんが、今回のOS(アウトソーシング)自体に「そんな無茶な」という感覚を持っていたんですよ。

能登原
大きな変革があるときは、最初はどうしても抵抗感がありますから。

工藤
ええ、「OSでコストは落ちるかも知れないけれど、その一方で大変なことになったらどうするの?」と。「コストが落ちても品質ボロボロでは意味が無い」みたいな意見が多かったです。それから、「今までコールセンターでやれていた業務がやれなくなって、それをどこか別の部署が負う分のコストは考慮しているのか」とかね。そういう話が出てくるわけですよ。

能登原
自分のところに余分な仕事が回ってくるんじゃないか、と警戒したりね。

工藤
そう。おそらくそういう抵抗感があったんでしょうね。皆さんに説明をしたのですが、今振り返るとやはり不十分だったと思います。納得感を得られるレベルには全く届いていなかったと思いますし。

「やっぱりステークホルダーとの利害調整は難しいな」とか、「それがこのプロジェクトのネックだな」とは、すごく思いましたが、プロジェクトを進めること自体にはあまり悩まなかったですね。

能登原
それはなぜですか?

工藤
悩まなかったのは、やっぱりやるしかないと思っていたからです。

能登原
なるほど。ステークホルダーといえば、プロジェクトを立ち上げる時に私も入らせていただいて、まず考えたのは、各OSプロジェクトの情報を、とにかく経営層やマネジャ会議に全て流すようにしようということでした。どうもそれまでは、そのあたりがみなさんバラバラだったんで。

工藤
ええ、文化的にそれは不足していましたね。

能登原
とにかくそこだけをプロジェクトのPMOで考えて実行しましたから、ステークホルダーの中でも経営層との調整は割と上手くいっていたと思います。

工藤
そうそう、経営層とは上手くいってました。経営層の後押しはちゃんとあったんですけど、やっぱりコールセンターから電話を受ける人たちとの調整が大変だったんです。現場から「今までだったらコールセンターで解決していた内容が振られてきた。どういうことだ!」という内容のことをさんざん言われました。

5月にパイロットという格好で、実際に新しいOSで電話を取る体制がスタートしたんですけど、実は過去の経緯から、それまでの期間もコールセンターは何を受け、何は受けなくていいかということが一切決まっていなかったんです。でも電話を振られる側は「アウトソース先に今まで出来ていたクオリティは保証しろと言え」と言うわけですよ。でも、「じゃ今まで皆さんが受けていたクオリティって何ですか。文書化して下さいよ」と言ったところできないんです。

能登原
なるほどね。要するに、こちらの負担が増えるのはごめんだよ、ということですね。

工藤
でもね、私ははなから「今までのクオリティを完全に保証するのは絶対に無理だ」と思ったんですよ(笑)。だからそんなところまでやろうと思わなかったです。

多少の、そういう「今まで受けてくれたのに、受けてくれなくなった」とかいう反応がきても、「そいうこともあるよ」と、そういう感じで。そのうち収束していくに違いないと考えていました。

能登原
現場の人たちも慣れてくれば、それはそっちに回されて当たり前になってくるだろうし。アウトソース先の人も慣れてきたら、最初は戸惑ってうまくできなかったことがちゃんとできるようになる部分も多いでしょうしね。

工藤
もちろん、ある程度はどこまでをコールセンターで処理し、どの程度のクオリティを保持するのか決めようと思いましたよ。だけどそこから漏れる部分は絶対あるので、それは出てきても気にしないことにしたんです。

能登原
その場合、文句を言ってくる現場の人にはどう言うんですか。「気にしない」とは言えませんよね。

工藤
その場合は、「一緒に決めましょう」と言うことにしました。「今まで決まってなかったんだから範囲を決めましょう」と。そして「もしかしたら決めた範囲から外れたことも、いろいろ出てくるかも知れないけれど、もし出てきたら、気付いた時にその都度必要な範囲に入れましょう」と言ったわけです。

能登原
相手も巻き込んで決めていくわけですね

工藤
ええ、「今こう決めたら受けない」ということじゃなくて、今とりあえずの範囲を決めようということです。そもそも、今まで決められてこなかったことが問題だったのだし、OSはいい機会だからこれを機会に決めましょう。とにかく決めて、この中に入れたいものがあとでこぼれているのがわかったら、入れる手続をちゃんと用意しましょうと説明したわけです。

能登原
基本的にはちゃんと対応していきますから、ということですね。

工藤
それでもクレームみたいなのはやっぱりありますけどね。

能登原
とにかくこのプロジェクトの場合、その範囲を決めないと前に進まないですから。

工藤
そうなんです。だからステークホルダーとの調整は大変ではありましたが、それほど悩まなかったわけです。

クオリティとコストダウン、相反する要求をどこで折り合うか

能登原
ステークホルダーとの調整に振り回されなかったのも成功の要因のひとつでしょうが、私が拝見していたところでは、このプロジェクトではやはりプロセスをちゃんと消化するのも、今までクオリティの範囲が決まってないところを作るのも大変だったし、OSのベンダーを決めるのも、それを定着化するのも大変でした。それはまあ、工藤さんのほうで全部スケジュール化されていて、それを順番に粛々とやっていくという感じでしたが。

工藤
そうですね。あとはやっぱり、アウトソーサーの方をコントロールするのがなかなか難しかったです。思うようにパフォーマンスを発揮してくれなかったりとか。

実際、とても難しいとは思うんですよ。全然きれいに整理されていないままの当社の業務をアウトソースするということ自体が。だから受ける側もすごく大変だったと思います。とにかく時間がなくて、業務のプロセスの標準化などはプロジェクトを進めながらそれと並行してやれる範囲だけでやっていきましたし。

それにうちの場合、コールセンターといっても通常のコールセンターのように問答集のパターン化がされてなかったみたいなんですね。いざ電話を受けてみるまで、どういう問い合わせがくるかわからなくて、東京ガスの情報システムに精通している人だけが切り分けがつくような難しい業務なんですよ。決まったあるシステムの範囲だけを受けているとかじゃなくて、もう東京ガスにあるありとあらゆるシステムの電話がかかってきますから…

能登原
それは大変だ。

工藤
それで、今まではその難しい業務をほぼきちんとできるくらいのノウハウを持っている人が配置されていたんです。要するに個人の属人性で何とかしていたわけなんです。

能登原
つまり現場のステークホルダーの言う「今までのクオリティ」というのはそれで保持されていたんですね。

工藤
そうなんですよ。でもね、属人性でもたせている限りはコスト削減なんてできないですし、できたとしても、属人性に頼るのは非常にリスキーだし…

能登原
ええ。万が一ノウハウを持っている個人に何かあったら大変ですよ。

工藤
その「クオリティを保証しているのは属人性である」というリスクをカバーして、その品質を保証しようとしたら、もう属人を2重、3重に組むしかないので、これはもう明らかにコストアップの構造じゃないですか。

能登原
それはそうです。その構造からどれだけ脱出できるかが問われるということです。

工藤
だから私はこの機会に、逆にそういう目でコールセンターの業務そのものをちゃんと整理していきたかったんですよ。

能登原
それはもっともな考えですよね。

工藤
大きな流れとして、「会社の意図はコスト削減にある」という認識があるから、あくまでもこのプロジェクトはコスト削減に向かっていく。そのなかで「今まで通りの品質が本当に必要なの?」という話をしないといけないじゃないですか。私としてはそこの話をステークホルダーの皆さんとちゃんとしたかったし、うちのチームには基本的認識として共有されていましたから、そういう意味での迷いはなかったんです。だからプロジェクトを進める上で多少ブレたり批判があったり、クレームがあったりということがあっても、コスト削減をきちんと考えた時に担保できないようなサービスをコールセンターの業務として受けちゃいけないと判断しました。

つまり、属人性に頼るのではなく、ある一定のベース教育を積んだ人であれば仕事を受けられる格好に作っていかないとダメだと思い、そういうかたちでコールセンターの業務の整理をしたいという考えが基本にあったわけです。でも現状はそうなっていないから、時間がかかってもそういうふうにしていくきっかけとして、ちょうどタイミングよく持ち上がったOSを使おうと(笑)。

能登原
最初の「このプロジェクトには乗りだ」(笑)と思った根拠ですね。

工藤
ええ。おそらく一度には出来ないけど、方向だけ定まっていれば、その方向で整理をしていけるはずだと思っていました。

能登原
そのように方向は決まっていても、やっぱりカットオーバーまでの期間が短かったから、そういう意味での困難さは、どうしてもありましたね。最初の運用を始めて、あるところで切り替えなければならないのですが、これが当時ものすごいプレッシャーじゃありませんでしたか。

工藤
そう、5月、6月がきつかったです。5月から1か月パイロット、要するにテスト稼動をやったのですが、クオリティの範囲が決まっていない中で唯一、いわゆる「握って」いた目標値が9%という放棄率なんですね。でもこの放棄率が守れないんですよ。

能登原
放棄率って?

工藤
電話を取れなかった確率ですね。例えば100本の電話があったら、そのうち9本までは取れなくてもいい、だけど91本の電話を取れなければいけないということなのですが、それが守れないんですね。

ですから、経営側にカットオーバーの判定をもらえないんです。「放棄率が守れてないでしょ」って。それ以外にもクレームが結構出ていましたし。

能登原
ということは、サービスレベルを約束していたんですか。

工藤
まあ、そうとも言えます。つまり、ペナルティのあるようなサービスレベルではないんだけれども、重要管理指標という格好で、東京ガス側と握っている数字に放棄率9%っていうのがあったんです。でも、その9%も、実を言うと妥当かどうかという議論はこれまでしてなくて、要するに実績から目標値を挙げていって決めた9%なんです。だから東京ガスの情報システムのサービスとしてみた場合「社内の情報システムのサービスで放棄率9%というクオリティが本当に必要なの?」という議論はしていなかったんです。

さらに重要指標という位置付けで、特に確固たる基準として決められている値じゃなかったので、最初OSとの契約には、その放棄率9%の数字を入れなかったんですよ。それが大失敗だったんです。

結局カットオーバーの時になって、「その数字が守られてないからダメ」っていうことになってしまったわけですから。それは私がもっと重視をして、ちゃんとOS先に最初から伝えておくべき数字だったのですが、仕様書の中に入れてなかったんですね。

能登原
その数字は入れ忘れたんですか? それともあえて入れなかった?

工藤
あえて入れませんでした。おそらく「放棄率9%確保せよ」って言ったとたんに、アウトソース先はそれを保証すべく安全な体制を組んでくると思ったので。そうするとコスト上がっちゃうじゃないですか。本当に放棄率9%という数字が妥当かどうか議論をしていないのに、その数字を仕様に入れるということにすごく抵抗があったし、それを入れたがためにコストが下がらないのなら、意味がないんじゃないのかな、という思いがあったので。

そこで、いろいろ他の業界の動向を調べて、コールセンターの指標によく使う「80%、20秒以内」という数字を採用しようと考えたんです。一般顧客の問い合わせを受けているところはまた別ですけど、だいたい社内のコールセンターだったら放棄率に直して大体15%くらいになります。調べた結果、15%の放棄率を超えると、すごく不満が高まるという統計を見つけたので、放棄率の限界は15%くらいだろうという心積もりがあったから、どうしても仕様書に放棄率9%って書きたくなかったんです。それを書いたら、すごく厚い体制を積んでくるんじゃないかなって。

能登原
「80%20秒以内」というのは、80%20秒以内で問合せを完結するってことですか。

工藤
いいえ、受けた電話のうち80%を20秒以内に取っているという。つまり、相手を待たせている時間が20秒ということです。

能登原
なるほどね。その放棄率の問題は、どういうふうに決着したんですか。

工藤
結局最後には、放棄率9%は守らなければいけない数字であるという話になったので、OS先にも「後付けで申し訳ないけれども、この指標を重要管理指標として入れて欲しい」と話をして、さらに「それは何ら守れなかったからといって契約上拘束する条件じゃないです。」と付け加えました。「ただ重要管理指標として目標値としてやってほしい。そしてその数字が守れなかった時には、アクションプランを出してほしい。」ということで最後は担当者同士で握ったんですよ。OS先も、「ペナルティを取られるものじゃないんであれば、それで努力しましょう。」ということになったわけです。

能登原
で、とりあえずプロジェクトが完了したのが、6月でしたっけ。

工藤
ええ。ただ厳密に言えばプロジェクトの完了時期は延びましたね。6月1日でコールセンターが完全にOSの体制に切り替わるというところまでは完全にスケジュール通りでしたが、クレーム対応などを考慮してプロジェクトの終結を若干延ばしました。まぁ概ねスケジュール通りとも言えますが。放棄率についてもなんとか改善の目途が立ったということで、この先はもうラインに引き継いで回していきましょうということで決着しました。

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