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2006年8月18日

細川 努さん(3)
株式会社日本総合研究所 次世代カードシステム事業本部

細川努さん細川 努さん
株式会社日本総合研究所
次世代カードシステム事業本部
1964年中央大学法学部法律学科卒業(株)日本総合研究所において流通系・金融系システムの構築に携わる傍ら、現場においてもオブジェクト指向、データモデリング等の開発手法の普及や、アーキテクチャ設計等の確立に努めてきた。
最近は、稚内北星学園大学東京サテライト校にて客員教授として、学生にシステムアーキテクチャ論を教えている。技術士(情報工学)、システムアナリスト、システム監査技術者。

プロジェクトが複雑化してもPMの基本は変わらない

細川努さん

能登原
細川さんは、以前は本社部門で先端的な情報技術の研究と横串的な技術支援をされておられましたよね。

細川
ええ、これだけ情報技術の進化が激しい時代なので、そうした技術の研究と支援は重要になっているのではないかなと思います。そうした意味で良い経験をさせてもらいました。

能登原
そのあとに金融の事業部に来られたんですよね。

細川
ええ、現在はクレジットカード関係のシステム構築を担当しています。こちらのほうでは、技術だけでなく、提案作成とか、かなり幅広い仕事をさせてもらっています。

能登原
今までは技術的な視野だったけど、今回はPMっぽい仕事もやられるんですね。

細川
そうですね。どちらかというと。

能登原
じゃあ今回の対談はPMの話でちょうどよかったです。特にカードは大規模なプロジェクトですからね。今までにデスマーチを経験していらっしゃるから、今回はもっとちゃんと準備をするとか、工夫はだいぶされているのではないでしょうか。

細川
そうですね。もともとかなり大きなシステムですから、いろいろと大変な面はありますね。

能登原
そうでしょうね。結局、最後は「ものが出来てなんぼ」みたいなところがありますからね。いろいろな技術の検証にしても、それはシステムとして全部できて、それが経営なり事業なりに貢献できるようになってはじめて成功ですから。そこまで全部見切ったりしないと、なかなか本当の経験にならないですよ。

細川
当然の話とは思いますが、我々SIerも、単にシステムを作るだけでなく、積極的に顧客に提案や調整を働きかけることがますます重要になってきていると思います。これはそんなに簡単なことではないですよね。

能登原
ないです。さっき商人のアジャイルの話をされていましたけど、近江商人には「三方両得」という考え方がありますよね。生産者も得するし、お客さんも得するし、自分も得する。我々もこの三方両得に挑戦するのが大切だと思うんです。PMでもユーザーとシステム部門とベンダーと、三者全員が得をすると思った時は上手くいきますね。

細川
なるほど。

能登原
逆にそうしない限り絶対上手くいかないです。本気になってくれないですから。

細川
メリット感をどうするかですよね。

能登原
ええ。上手く調整して、みんなにメリットがあると思わせることが大切ですよね。

細川
最近Web2.0になってからビジネスがどう変わるか、いろいろ調べているんですけどね。今までの消費者は単に商品を買うという受動的な立場だったのですけれども、インターネットが普及することによって、こうした消費者と商品を販売する側との関係がだんだん変化してきているのです。

能登原
そうですね、以前は単なる顧客だった人が今度はマーケッターに変わってセールスしてくれたり。

細川
そうなんですね。今は、従来のように広告宣伝にお金をかけても、なかなかヒット商品が出にくい時代なのですが、インターネット上のコミュニティーで話題になって売れる商品なんかは増えているのです。例えば、自分が子どもを育てながら育児用品を使ってみて、「ああ、これは素晴らしいな」と自分の育児についてのブログでPRしたら、他の人がそれを見てその商品を購入する。ブログで宣伝した人にはメーカーや販売会社から報酬がもらえる。こうした口コミ的な宣伝効果は、爆発的な場合もありますが、少しづつの効果でも、積み重なると膨大な市場と為りえます。いわゆる「ロングテール」の効果ですね。
こうなってくると、消費者と販売側という明確な境界線がぼやけてきているのではないでしょうか。

こうした結果、これからは、システムのあり方も変わってくると思います。今までのシステムは、システムを作る側と使う側とがはっきりしていたのですが、こうした境界線もだんだんぼやけてきています。
例えば、マッシュアップといって、インターネット上でシステム機能を公開しておけば、それを利用して、他の会社やエンドユーザーがこうした機能を利用した別のWebサイトを構築するというアプローチが流行っています。我々のような専門家でない人たちでもこうしたことができるようになって来たのは大きな変化です。

能登原
変わってきていると思いますね。そういうビジネスモデルを創出するということもシステム化以前に大切なことです。まず事業であって、そのビジネスモデルをサポートするためには絶対ITがないといけない。まあ、ネット証券なんかもそうですけど、ビジネスモデル創出の段階から一緒に開発したり、考えられるといいですよね。

細川
ええ、ただ、そういうふうに変化していく中でも、能登原さんがさっきおっしゃったような、メリットを共有し合うとか、または段取りですとか、PMが今まで大事にしてきたこと自体はあまり変わらないと思うんですよ。

能登原
そこは変わらないと思います。PMにとっての普遍ですからね。そこを上手くやりつつ、いつも三方両得のようなチームを作ろうと心がけて、自分たちも得をするし、みんなも得をすると。そうするとまた次に仕事をもらえて、またビジネスがつながっていくというサイクルを常に作っていくということが大事なんじゃないでしょうか。

細川
なるほど。変化の時代であっても、そういう自分にとってのコアコンピタンスさえ信じていれば自信を持ってやっていけるということかも知れませんね。

能登原
やはり最後はそこに行き着きますよ。そこまでに細かい技術的なところがたくさんあって、それを創り出すのがなかなか難しいんです。細川さんは現在そこでご苦労されていると思いますけどね。

ビジネスとITを一体化させた「全体設計」の必要性が高まっている

細川努さん

細川
最近、要求開発アライアンスという、業界横断的な団体に携わっています。ここでは,ビジネスモデリング技法をうまく使うことによって、ビジネス要求を正しくシステム要求につなげるためアプローチについて、ユーザー企業と一緒にいろいろな検討を進めています。

能登原
細川さんから見た感じはいかがですか。あるいは自分の中の位置付けとか。

細川
そうですね、さっき申し上げたような感じで、ユーザーさんがその要求を明確にできないようなケースもけっこうあります。と言うのは、ビジネスとシステムが一体化してしまって、「そもそもビジネス要求というのは何か」という全体像を描けないんですよね。
事業戦略とか、全体としての最適化のような大きな話から、具体的なシステム構築にうまくつなげるためには、もっといろいろな工夫が必要になってきていると思います。

能登原
私は以前ユーザー企業にいたので、その部分こそ自分がやり方をいろいろ考えていた部分なんです。そういうところにみんなが着目してくれて、「大切だよ」と言ってもらえるのはいいことなんですけど…

細川
なるほど、今になっての話ではないわけですね。

能登原
さきほど情報システム部門が小さくなった話がありましたが、やはりそこも大事だよと再発見していくことは重要だと思いますね。ユーザー企業の人たちもそこにお金を付けて、自分たちももっとちゃんとやろうと考えてくれるほうがプロジェクトの成功する確率が高くなるので、非常に大事だと思っているんですよ。

細川
私の個人的な知り合いのユーザー企業の情報システム部門の方も、そういう業務とシステムの全体像をモデリングして、成果を発揮されています。
業務とシステムの全体像を示すことによって、ユーザー部門の部門長と「これでいいですよね」と確認したり、それをベンダー側に示したりすることによって、かなり成果をあげきたようです。
このように、ビジネスとシステムとを全体的に捉えて、的確なシステム構築をおこなうことが重要になってきていると思います。

能登原
ちゃんとやっていらっしゃる情報システム部門の方もいらっしゃると思いますけども、やっていなくて、そのままいきなり発注、要件定義から開始…というのもありますね。

細川
あとはベンダーにやってもらうとかですね。

能登原
そうすると一番問題なのは、どういうものを作らないといけないか、あるいはスコープがどこまでかというのがほとんど分からないまま予算が通るので、予算と実際に開発しようとするものの落差が大きくて、後々もめてしまうんですよね。
でも上流でユーザー側がきちんとやると、「こういうものをだいたい作ろう。スコープもこんなもんだな」と見えるので、初期見積もりが出来る。上流をきちんとやるということはそういう面でもいいんですよ。

細川
けっこう手間がかかるようなんですけど、後々を考えてみるとやっぱり大事ですよね。

能登原
本来、それをやらずに一括でどこかに頼むほうがおかしいはずですけどね。

細川
ましてや、最近はチャネルの多様化とか、全体の業務からしてユーザーへの接点の取り方がいろいろできたりとか、バックボーンにあるデータが一緒だったりとか、業務とシステム自体がかなり複雑になってきていています。ある程度ビジネスとITの設計図をベースにしないと段取りが組めないような時代になっているんじゃないかと思います。

能登原
そうかも知れない。本来は、エンタープライズDBみたいなのがあればいいのですが、できていないですからね。昔から細川さんも目指しているし、私も目指していたんですけど、なかなかできない。

細川
まあ、どの会社にも「孤島DB」がいっぱいありますから。

能登原
よくERwinユーザー会の中でこういう議論をしましたが、なかなか整理が出来ない。でも、あるとやっぱり楽ですよね。

細川
いつも、データ総研の椿会長にはこうした分野でいろいろなお話をうかがっています。

能登原
孤島DBをEAIツールでつなごうという話とかされていましたよね。

細川
ええ、孤島システムにしないために、企業のシステム間でデータをどのように共有するかというアプローチです。

能登原
私もそろそろ一回お説教を受けて、刺激を受けないといけませんね(笑)。

今こそデータモデリングの再評価と整理が必要

細川努さん

細川
ところで、企業システムを全体的に統合するための技術は増えているのですが、単に技術だけでは成果はあがりません。

能登原
僕は思うんですけど、それは基本的にデータモデリングの技術が分かっている人が少ないからだと思いますよ。いろいろな技術がありますが、「そもそもデータモデリングとは何ぞや」とか「データ整理とは何のためにするのか」が分かった上でテクニックや方法があるわけですから。アイ・ティ・イノベーションでも、データモデリングの教育コースにもっと力を入れないといかんと、最近ちょっと思っています。

細川
ほう、素晴らしい。

能登原
やっぱりそこからやらないと。この世界に80年代から入っている人はモデルや基礎が大切だということを習ったんですけど、90年代から入った人は、いきなりプログラムを作れば何とかなると思っている。GUIから作り始めている、CASEツールから入っているという状況じゃないですか。

細川
ああ、それはありますね。

能登原
.Netの4.0くらいから入ると、プロパティの設定だけすれば動きますからね。95年くらいに入ってきた人たちが、今中核になっている。もう一回教育をちゃんとしないとモデリングの大切さが分からないんじゃないかと危惧しているんですけど、どうですか?

細川
よく言われる話なんですけど、やはりビルを建てるのは犬小屋を建てるのと違うと思うんですよね。犬小屋だったらイメージイラストでも描いて、さすがに犬が入れないとまずいですから「セントバーナードだったらこれくらいかな」と犬のサイズを測って、それだけ測ったら、あとは適当にやってもまず失敗しないですから。

能登原
ちょっとくらい隙間があってもいいですし(笑)。

細川
ビルはちょっとそれではまずいですよね。設計の段階でも、考慮しなければならないことが非常に多い。風洞実験をやったり、電源をどういうふうに配置しないといけないとか、鉄筋はどれくらいまで減らせるとか(笑)。

能登原
コストとのバランスがありますからね。

細川
きれいに言えば、過剰コストにならないように強度としてはどれくらい持たなければいけないか、そういうのを含めてちゃんと測ってからやらなくてはいけない。かつ建てる時も、やっぱり段取りというのは必要ですよね。

能登原
必要です。

細川
そういうアナロジーで言えば、全体の構造設計ができる人が少なくなってきたと。

能登原
そこで、ツールがあっても使い方が間違っていたりして、結局うまくいかない。

細川
なるほど。ツールは高度になっているんですけど、人間が高度になっていないんですね。

能登原
そうなんですよ。そうするとERPに安易に流れがちなんですよね。構造設計をしなくていい部分があるから。それが90年代の後半から2000年代の初めにあったERPのブームだったと思うんですよ。

細川
ERPを使えば平均点は取れますからね。

能登原
ただ、企業がグローバルシステムを作るとか、非常に新しいインターネット技術と組み合わせて作らないといけなくなると、今度は競争優位のために手作りをしないといけなくなる。もう一回、ちゃんとした構造で大きいものを作らないといけないというニーズが出てくることになります。ERPではやはり会計くらいしか作れないじゃないですか。競争優位の仕組みは自分たちが作らなきゃいけない。そうするとそこでまたちゃんと作る技術が求められますよね。たぶん御社にも求められる。

細川
ERPでできることって限られているんです。単価の決定ルールにしても、本当はいろんなルールがあるはずなんですけども、ERPに合わせるとそれに縛られてしまう部分が出てくる。

能登原
ネット証券の仕組みなんかはERPじゃ作れないでしょうしね。

細川
それは無理ですよ(笑)。
結局、何を持って技術者のコアコンピタンスとするのか、最近ぼやけている気がするんです。例えば新しいツールを使えるのが偉い人なのか、それとも見積もりが出来る人が偉い人なのか。その中で、能登原さんのおっしゃるように、全体の構造設計を作るようなモデリングが軽んじられている。あまりよろしくない傾向ですね。

能登原
そうです。プロジェクトマネジメントも非常に重要ですが、一方でITアーキテクトやモデラーが担うアーキテクチャ設計やデータモデリングの作業や役割が未整理で、しかも大切さが認識されていない。開発の方法論をどう定義するかとか、インフラ設計をどうするのかとか、アプリケーションアーキテクチャをどう設計するかというようなスペシャリティの高い業務を整理し、そういうところは、ちょっと気の利いたSEがやる領域ではなくて、ITアーキテクトが誇りをもって実施する作業と世の中に認知させていきたいですね。

細川
ああ、そうですね。

(次回に続く)

構成;萩谷美也子

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