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2008年7月 1日

野村 一行さん(5)
マイクロソフト株式会社 デベロッパー&プラットフォーム統括本部 パートナーテクノロジー推進本部 エバンジェリスト

野村 一行さん野村 一行(のむら かずゆき)さん
マイクロソフト株式会社
デベロッパー&プラットフォーム統括本部
パートナーテクノロジー推進本部
エバンジェリスト
1995年にマイクロソフトに入社、主にマイクロソフトの最新技術の紹介、技術啓発を担当。2003年よりアーキテクトエバンジェリストとして、マイクロソフト技術だけでなくIT技術者が求めるアーキテクチャ関連の情報を、様々なイベント、アーキテクトコミュニティやWeb、雑誌などを通じて発信しITアーキテクトの啓発、認知向上に努めている。またマイクロソフトが提唱する「Software Factories」イニシアチブにてソフトウェア開発の工業化アプローチの普及にも従事し、「ソフトウェアファクトリー」(日経BPソフトプレス刊)の監訳を担当。

エバンジェリストとしてのモチベーションと達成感

野村 一行さん

野村
例えば.NETフレームワークが存在しないと仮定すると、それこそ何千何万というAPIを駆使して、Windowsプログラミングをやらなければなりません。数十人掛かりでやらなければならなかったことを、今ならおそらく一人でできるほど生産性があがりました。

能登原
おっしゃるとおりです。昔はもっと基本的な部分のモジュールから自分たちで書いていましたね。そういう時代を知っている人間から見れば、今は本当に素晴らしい時代になりました。

野村
その利便性をもっと計画的に拡大して行きたいのです。自分たちがITで培ったノウハウで、より便利な道具をつくって、仕事を楽にしていく。職場環境から含めてそれを逐次進めていったら、きっと技術者の生産性は驚くほど上がると思います。

能登原
トータルの生産性は本当に上がりますね。ITを使えるのは開発そのものだけではなく、周辺にもたくさんあります。構成管理ツールもそうですし、情報共有の仕組み、例えばメールもそうですよね。ITをうまく道具として使うというのは、さまざまなところに応用できます。

野村
そう思います。私はこの会社に入るまで、まともに電子メールを使っていなかったのですが(笑)、今はメールなしでは仕事ができないですからね。
IT技術を活用することによって、仕事の生産性が高まるようになってきています。これがどうしてシステム開発の現場で実現できないのかと、不思議でならないのです。

能登原
おっしゃるとおりです。これからそれを担うのがマイクロソフトさんなのでしょうね。

野村
そういう夢を語りながら、今できるところから一歩ずつ、確実にやっていくことを重視しています。

能登原
なるほど。

野村
私は、「人はビジョンがないと生きていけない」と思っています。この先にこういうことが待っている、あるいはこういうことがしたいと思うから、その目的に向かって今を生きていけるわけで、この先何にもないと考えた途端に、前向きに生きる気力を失ってしまうものだと思います。そのビジョンが夢物語みたいなものだとしても、自分自身も含めて、モチベーションは技術者の生命線だと思います。ですから、便利な道具をすぐ提供するほかにも、技術者の皆さんが日々モチベーションを保ちながら、夢を持って仕事をしてもらう環境づくりの一角を担えればいいと思っています。
非常に口幅ったい言い方ですけども、IT業界で働く個人の幸せから、IT業界の幸せ、もしくは社会全体の幸せに、多少なりとも貢献できるかもしれないというのが、私の今のモチベーションです。それが自己実現的な達成感に結びつけられたら最高だと考えています。

能登原
そういったモチベーションを持ちながら仕事をされていて、野村さんがエバンジェリストとして達成感を感じるのは、どういうときなのですか。

野村
まず非常に個人的なところでは、「将来はこうなるのじゃないか」という技術予測のようなことを周りとやっているのですが、それが何年か後に実現したときは、「勝った」(笑)と思います。

能登原
Vistaの使い勝手が非常に良くなったとか、そういうことに関してはどうですか?

野村
ぼんやりとですが、95年に入社したときから「いつかマッキントッシュに追いついて追い越す」と思っていたので、ビジネスだけではなくて、技術的にも対等以上のものができたときには、「Windowsに賭けて正解だったな」(笑)と思いました。
エバンジェリストとしては、「これからはこういう方向性で技術が発展してゆきます」という話をいろいろな技術者の方々とさせていただきますから、実現したときには、「ああ、良かった」と、ほっとしますね。

能登原
なるほど、「全然違ったじゃないか」と言われるようではまずいですね。

野村
そのほかにもマイクロソフトの製品だとか、あるいは自分が啓発活動に携わってきた技術を活用した製品が出たときには、自分が作ったわけではないですけれども、やはり嬉しいです。
「また仲間が一人増えた」という感じです。

能登原
そうでしょうね。

「見えないもの」「斬新なもの」を広めるための努力

能登原伸二

能登原
逆に「つらい」ときや「しんどい」ときもあるのではないでしょうか。エバンジェリストはかなり抽象度の高いお仕事です。イメージを共有していくには、コミュニケーション技術もいるでしょうし、説得力をどうやって出していくかというところでも、ご苦労されることもあるのではないかと思うのですが。

野村
まさに説得力のなさを痛感する日々です。私たちの仕事は、全てが全て目の前に置いてお見せできるようなものではないですからね。アーキテクチャというものが、まず見せることができないものですし。

能登原
そうですね。

野村
「アーキテクチャというものがあるんだったら、ここに出してみろ!」と言われても、無理な話ですから(笑)、説明をして、「将来に向かってこういう方向性にマイクロソフトは行きたいと思うので、ついて来てください」とか、「それに向かって一緒に仕事をやらせてください」とお願いするわけです。納得してもらうためのカギは、目に見えるものというより、自分自身が本当にそれを信じているかということのほうが大事だと思います。説得力を生むのは口先だけのテクニックではなくて、まずは自分自身がどれだけそれについて考え抜いて、それを信じているのかということです。それがパッションとして現れるわけです。人はやはり、そういう言葉にならないところで判断するのだと思っています。
なので、それが自分の中で十分醸成されていないと「ふーん、そうなの? 何か信じがたいね」とか、「そんなことより今のこの問題を何とかしてくれないと駄目なんだよ」と言われてしまうわけです。

能登原
お客さんの立場からすれば、そうでしょうね。目下の問題を解決したいというニーズが先に立ちますから。

野村
そこに自分の情熱不足だとか説得力のなさを感じて、しんどいときはやはりありますね。また、多くの人は「今日の問題、あるいは直近の問題をどうするか」が仕事のほとんどを占めています。それはマイクロソフトという会社も例外ではありません。それこそ能登原さんがさっきおっしゃっていたように、「この人たちはいったい何をしているのだろう?」という視線は、会社内にも実はあります。そういった仕事のスタンスの違いからくる孤独みたいなものをたまに感じるときもありますね。

能登原
なるほど。もうひとつお聞きしてもいいですか?
私はプロジェクトマネジメントのコンサルをやっていますが、新たなニーズも生まれてくるし、それにどのような解決策があるのかを提示するためには、常に勉強する必要があります。アウトプットをしているだけではなく、インプットも必要です。
野村さんも、次から次へ新しいことを提供していかなければいけないお立場ですが、その勉強といいますか、インプットはどのようにされているのでしょうか。

野村
以前は社内の研修に出かけたり、あるいは本を読んだりしていたのですが、だんだんそれも時間的に厳しくなってきました。最近は、まず人の話をよく聞いて、インプットすべきことの見極めをするようにしています。
以前に比べて、多くの方とお話をするようになりました。エバンジェリストは本来いろいろな人とお話をする仕事ですが、最初のころは、「まず自分が勉強をして、よく理解してからでないと人に会えない」という気負いがあったのです。ですから、自信ができるまで人と会うのを避けていた部分もありました。でもここ数年間は、いい意味で開き直って、まずはとにかくお会いして「まだすっきりまとまっていない段階ですけれども、方向的にはこうです」というお話をすることも多くなっています。
ですから、まずお客様、それからパートナーの技術者の方々のお話をよく聞きます。その中で相手が引っかかりを感じているものは何かをはっきりさせ、「これはこの方だけではなくて、全体の問題であり得るな」というように、重要なポイントを見極めるのです。
実は相手が話している内容の半分ぐらいが、すでに答えになっている場合があるのです。

能登原
分かります。完全に「耳学問」ですね。

野村
そうです。そこで、まずかなりの勉強になっています。
もちろん、それだけでは点の集まりなので、そこを線としてつなぐ作業は、本を読んだり、セミナーに出かけていくことで補わなければなりません。以前に比べると、そういったお話の中で「これは大事だ」と見極めを付けながら、足りないところは本で勉強し、実際に試してみたり、社内の人間に聞いてみるというようになっています。

能登原
知識の土台ができているので、ポイントからだいたいの全体像が分かるようになってきているのかもしれませんね。

野村
でも、この会社はなかなか楽をさせてはくれません(笑)。「もうこの辺でだいたい身についたかな」と思うと新しい技術を出してきて、またそこでリセット、勉強のやり直しという感じです。

能登原
なるほど。それは昔と一緒ですね。前職でバージョンアップに追われていたころと(笑)。

野村
そうです。キャッチアップといった意味では、あまり変わっていないかもしれないです。そこは悩みですね。

能登原
なるほど。

野村
「この技術を理解したら仕事が楽になるだろう」、「明日は楽になるだろう」と思いつつ、なかなかならない(笑)。ですから、プロセスとして楽しむ。例えば「また今日も新しいことが勉強できた」と思うことで、新しい技術に対してポジティブでいようと努めています。

IT技術と心理学の世界の融合を

野村 一行さんと能登原伸二

能登原
最後に、今後の夢といいますか、野村さんは今後どのように仕事を展開していきたいとお考えでしょうか。

野村
ソフトウェア実装に少し軸足を戻したいと思っています。それは昔のように、自分でパッケージソフトを開発したいということではありません。実装者の観点を大事にすることによって、抽象度の高いアーキテクチャの世界で仕事の幅を広げることができるのではないかと思っています。ですから、今までは時間がなくて後回しにしていたコーティングの世界に、もう少し意識して時間を使えるようにしていきたいですね。

能登原
野村さんは入社されて10年ちょっとくらいですよね。エバンジェリストとしての達成感は常にあるとは思いますが、今後、エバンジェリストにこだわらずに、マイクロソフトの中で別のことをしてみたいとか、そういった夢はおありですか。

野村
この業界に入ってからおぼろげながらずっと考えて、やりたいと思っていたことなのですが、心理学の世界とITを融合させることです。それはひょっとしたら新しいコミュニティのありかたかもしれないし、何か新しいソフトウェアかもしれない。二つを融合する中で、アイディアを出してみたいという気持ちがあります。
それはたぶん、ITの世界の中だけでは実現できないものです。そうかと言って、哲学や心理学などを学んできた人たちにも、ITの世界はよく分からない。その間でバランスをとりながら、よりよい社会や、人々が気持ちよく過ごせる仕組みについて、新しいアイディアを出せたらいいなと思っています。
昔はそれをソフトウェアで実現しようと思ったのですが、技術者としてはブランクがありますし、ちょっと無理かと思っています。むしろソフトウェアに哲学や心理学を組み合わると、何かできるかもしれないと言う可能性を感じています。

能登原
なるほど。それは何か製品のかたちをしたものですか。それともITに携わる人の環境をもっと良くするとか、チームの生産性向上なども含めてでしょうか。

野村
それもあるのかもしれないし、コミュニティに対する考え方なのかもしれないです。例えば、アジャイル開発の考え方をすごく極端にとらえると、「モチベーションを高くてクリエイティブな人たちが集まれば、素晴らしいソフトウェアができる」という理想像がありますよね。
その理想の世界は、「最初から有能な開発者がいて、自由闊達な人たちが集まってソフトウェア開発をする」というイメージなのでしょうが、そういう場をうまくつくっていくことが可能ならば、普通の人たちでもできると思います。個人個人が高めあっていくために助け合う考え方、それからアジャイル開発で理想とされるような場をつくること、その両方がミックスされて、なおかつIT技術を活用することで、実際にそういう世界ができあがっていくのではないかと思います。

能登原
それはまさに、プロジェクトマネジメントの世界です。それができると、すばらしいですね。

野村
ええ、実は一プログラマとして働いているころから「何で自分の働いている世界はこうじゃないんだろう?」という気持ちがずっとあったのです。

能登原
ぜひ今度ゆっくり時間をかけて、その話をしましょう。私も非常に興味がありますね。

野村
まだ自分の中でも、もやもやしている状態です。ソフトウェアだけではどうもうまくいかない。人間系に目を向けても、人だけの力でもやはりうまくいかない。その日の体調やモチベーションに左右されるし、迷ったりもしますからね。最初は意欲があっても、2ヶ月、3ヶ月かかるうちにトーンダウンしていって、うまくいかなくなったプロジェクトは山ほどあります。やはり、そこに技術的なものをプラスすることが必要なのだと思います。

能登原
なるほど。人間系で心理的なことを改善することと、IT技術を使って生産性を上げることをうまく組み合わせて、明るい職場、活力のある会社にできるといいですね。

野村
そういうモチベーションがないと、人間は生きていけないということです。

能登原
われわれコンサルタントもそうですが、何か教える、伝道するという場合には、そういったモチベーションは絶対に必要ですね。
われわれコンサルも、お金のためだけでは頑張りがききません。「これをやったらプロジェクトがうまくいくだろう」「みんな助かるだろう」と思わないと、やっていられない部分がありますね。

野村
ええ。人間は、ある程度は自分だけのために頑張れるのです。しかし、問題が大変になってくるほど、「人のため」と思わないとできないですね。「ここで自分が止めたら、困る人たちがたくさんいるだろう」と思わないと、もう止めたくなってしまう(笑)。そういう局面はいくらでもありますよ。

能登原
今日のお話をお聞きして、私も、もう少し心理学や哲学を勉強したくなりました。
本日は、とてもよいお話をお聞きしました。本当にありがとうございました。

(終わり)

構成:萩谷美也子

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