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角 行之ご意見番のコラム

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2006年9月 1日

ハングリー精神

前回の記事「零(ゼロ)の発見」で、インドに旅行中、二人の若い日本人と逢い感激したことを示唆した。65年も齢を重ねると、感激することなどほとんどないが、望外の喜びだった。

福島有紀さんはSBS(ソフトブリッジ・ソリューションズ)の社員であり、インド人に日本語と日本文化を教える「i-to-j」コースのインストラクタ。彼女から今の仕事を選んだ経緯を聞いて感心した。学生時代、日本語学科の大野晋さんから「日本語のルーツの一つはインド地方のタミール語」との説を聞き、タミール語に興味をもった。そこで、卒業後、コロンビア大学の修士課程でタミール語を学び、それを活かすためにインドに渡り、現在の職を得た。この大野さんの説は、じつは僕も学生時代に大野さんから聞いていて、「タミール語」の存在が脳裏から離れない一人だ。東南アジアに出張してホテルに宿泊すると、テレビではかならず「タミール語」のチャネルがあり、興味がつきなかった。福島さんとは違って、さっぱり理解できないのだが、なんとなく親近感を覚えた。こういう経験があるので、彼女の話に引き込まれたわけだ。現地で「i-to-j」と「j-to-i」のコース概要を聴き、教育効果の専門家として、いくつかのアドバイスをした。この教育は、僕が委員をしているIFIP/WG3.4(情報処理国際機構・社会人教育)での格好のテーマでもあり、データを採取して論文に纏めるよう指導するつもりだ。日本発のオリジナリティの高い論文が期待できる。近々、日本支社勤務に異動すると聴いているから、具体策を講じるつもりである。
もう一人が居川幸平さん。種子島の出身で、海外で実力をつけ、将来は故郷に戻り事業を起こすことを決意している。その心が感激させる。種子島にはこれといった産業がなく、若者の島離れに歯止めがかからない。彼自身、離島した。しかし故郷を過疎のままにすることには耐えられない。そこで国際競争できるソフトウェア産業を興し、島の発展に貢献しようとの雄大な将来構想を胸に秘めている。彼の才能と精神力なら、かならず成功するだろうし、微力ながら応援をするつもりである。

このお二人もそうだが、僕が海外で逢う若者には共通点がある。それは現代の日本人が忘れてしまった「ハングリー精神」を健気に持ち続けている点である。たしかに、世界一物資が豊富な現在の日本で、「ハングリー精神を持て」というのは、猫に「ワンと啼け」というようなもので不可能を強いるだけだろう。「いまの若者にはハングリー精神がない」というのは嘘で、老いも若きもそんな精神など持ち合わせていない。欲の皮の突っ張った者が、法外な不労所得を夢見て詐欺に引っかかる事件は連日報道されている。これなどはハングリー精神とは無関係で論じる価値すらない。ただどんなに経済が豊かになっても「知的ハングリー精神」は心の持ちようで維持・向上はできる。「金さえあればなんでも買える」と言って世の顰蹙をかった御仁も居るようだが、こんな輩はハングリー精神とは対極にある哀れな生き物だ。心にもない虚言で詫びるより、福島さんや居川さんの爪の垢でも煎じて飲むがいい。【完】

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