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2006年8月25日

【林衛の業界探求シリーズ】経営者・稲盛氏との出会いで学んだこと~KDDIとの合併によるカルチャーの違いを乗り越えるマインド

繁野高仁さん

繁野高仁氏プロフィール
1953年生まれ。1977年 北海道大学工学部電気工学科卒業し、日本NCR入社。1985年 DDI(現KDDI)に入社。DDIとDDIポケット(現ウイルコム)の創業に参画し、情報システム部門の責任者として社内システム全般を統括。2000年からは、DDIとKDD、IDOの合併に伴うシステム構造改革を推進し、昨年度の日経コンピュータ誌「情報システム大賞」グランプリを受賞。情報処理学会、経営情報学会会員。

新システム構築プロジェクトが火を吹いたタイミングでの合併話

繁野高仁さん


DDIポケットでよいシステム構築ができたことが、繁野さんの自信にもつながりましたか。

繁野
ええ、自分なりに満足出来るシステムができたので、これだったら手島さんの言っている理論で行けるだろうと自信を深めましたね。当時のDDI本体の情報システムを外から見ていると、いろいろな問題があるのが見えるわけです。ただ僕はもうポケットに出てしまっている立場だし、手出しができない。ところが開業したら千本さんは辞めちゃうし(笑)、もう孤立無援で忘れられた存在になったんです。システムが一段落すると「ともかくコスト削減して利益出せ!」となるし、「これ以上僕はここにいても、もう何も出来ないんじゃないかな」と鬱々としていたんですよね。
そうこうしていたら、たまたま2000年にKDDとの合併の話が持ち上がったんです。


あの合併は一大インパクトでした。

繁野
当初、僕は人ごとみたいに思っていたんですよ。ところが当時、開業のときからのシステムがさすがに持たなくなったんで全面的に再構築しようというプロジェクトがあって、それが火を吹いちゃったんですね。たまたまその時に合併がぶつかったんです。合併の際はDDIが存続会社だから、当然DDIのシステムを中心に考えたかったのだけども、そんな状態ですからね。一方KDDは合併直前に出来たばかりのフルオープン系の最新システムで、日経コンピュータの賞ももらって「これさえあれば何でもできる」と言う感じだったんです。当然ながら、KDDの人はもちろん、機能を比較してもみんな「そっちのほうがいいんじゃないか」という話になるわけです。だけどDDIも新しく開発していたシステムをなんとか動かしたい。でも最終段階になって、あそこまで火を吹いていると難しい。そこで助っ人に入ることになったんです。


それはたいへんな状況での助っ人ですね。どういうきっかけで戻られたんですか

繁野
現在イーモバイルの社長をやっている種野さんが、ユーザ部門の担当役員として情報システムを非常に心配していたんです。彼と話す機会があって「僕が戻るしか手がないでしょう」と言ったら、種野さんも「分かった。すぐに戻れ」と言うことになって、合併までになんとかしようということで戻ってきたんです。

しかし、どうやって見ても新システムを動かす目処が付かないので、今のボロボロのシステムで当面凌いで、合併後に時間を掛けて新会社のシステムを構築することにしたんです。ただ、向こうは出来たばかりの最新システム、こっちは20年近く経ってボロボロのシステム。常識的に考えれば、なぜDDIのシステムを使うんだと言うことになるでしょう。お互いの議論が紛糾して、10月に合併が迫っているのに5月の連休になっても方針が決められなかったんです。


さて、どうするか(笑)。

繁野
ギリギリになって考えたのが、やはり最終的な責任は存続会社であるDDIが負うべきだということです。それと同時に、マイラインという制度が入って来るタイミングだったので、マイラインに既存のお客さんをどう切り替えていくかということが一番大事なわけです。そのためには、顧客の既存データが圧倒的に多いDDIのシステムでやらないと非常に危険だと。業務もこのシステムよって回っているわけですから。そこで奥山社長に「そういう理由でうちのシステムでやりたい」と話したら、僕を信用して「分かった」と言ってくれ、さらに前面に立って話をしてくれたわけです。それは非常にありがたかったです。


そういう重要な時には、決断の正当性というか、問題の解決の方向に向かうかどうかというところが押さえられていれば、他は何がなんでも重要というわけではないですよね。

繁野
ええ。あそこでトップがふらついていたら下も動けないですね。本当に奥山社長のおかげで合併対応が上手くいきました。結果的には、ボロボロのシステムの方が取り敢えずの対応には強かったように思います。DDIの社員もベンダーのSEも、取り敢えずの対応ばかりやって来たせいか、火事場になると物凄い力を発揮するわけです。それに、KDDの社員も立派で、一度決まれば全面協力を惜しまなかった。マイラインの受付システムなどは、KDD側で開発していたものを使わせてもらいました。

システムそのものの優劣よりも、その背景にあるカルチャーの違いが問題

繁野高仁さん


システムの統合とか合併があるとシステムそのものの部分的な統合というのも非常に重要な課題ですが、カルチャーの違う社員の人が開発したり運用したりすることになるわけですよね。そういう面はどうでしょうか。

繁野
本音を言うとね、システム自体の優劣を議論することよりも、会社のカルチャーとか情報システム部門のカルチャーのほうがはるかに大事だと思ったんですよ。最後は自社の文化を選ぶのか合併相手の文化を選ぶのかということなんです。だから種野さんからも「これは企業文化の問題だ。戻って来てお前がなんとかしろ。こっちのシステムにならなかったら、もうお前の仕事は無いぞ!」と言われましたね。

実際そうなんですよ。カルチャーが悉く違うんですね。情報システム部門を見ても、DDIの社員はITベンダーから転職して来たり、新卒で入社以来情報システム部門で育った人間ですから、ずっと情報システムをやってきた。ところが当時のKDDの情報システム部門は、新システムを開発するために、通信部門から優秀な人を集めてやっていた。だから本籍はあくまで通信で、ずっとこっちにいると思ってないし、通信屋的な発想でシステムを作っている。システムのアーキテクチャも全く違う。通信屋さんって面白いんですよね。他社にも似たような例があるんですが、まず汎用機は時代遅れと思うようで、自分たちが日頃親しんでいるUNIXとかオープン系だけを使おうと考える。もう一つ、バッチ処理についても必要悪と考える傾向があって、リアルタイム処理に拘る。


カッコよくやる(笑)。

繁野
システム屋なら、リアルタイム処理にするほどリカバリーの考慮などでシステム作りは難しくなるし、コストもかかると考える。特に保守性の面で柔軟性の乏しいシステムになるのが心配ですから、必要以上のリアルタイム処理は避けようとするでしょう。例えば、請求書の発行でも、成田から帰国する外国人がキャッシュで払いたいなんていうのもたまにはありますが、大半の請求書は月に一回だけ大量に出すわけです。システム屋であれば、バッチ処理を前提にして例外的な対処を考えると思いますが、通信屋さんはすべての請求処理をリアルタイム化するべきだと考えるわけです。それくらいカルチャーが違うんです。

しかも物事の決め方にしても、DDIは、さっき言ったように過去を振り返らない文化で、良くも悪くも朝令暮改です。だから会議でも「じゃあどうするんだ」という先の話しかみんな関心ないんです。過去にどう言ったとか、議事録にどう書いてあるかというのは全然話題にならない。ところがKDDの文化は逆で、「あの時どう言った」とか「議事録にこう書いてあるじゃないか」ということが議論の中ですごく重視されるわけです。


時間がかかりますよね。

繁野
だから堅実ですが、リスクを負ってチャレンジするような発言は乏しくなる。うかつなことは言えないわけですよ。それなのにこっちはうかつな発言ばっかりだから(笑)ものすごくもめるわけです。そのくらい違うんです。だからシステム自体の機能の優劣や古いか新しいかじゃなくて、どちらのカルチャーでいくのか。そういう話が本質だと思いました。

結局は「原点」をどこに置き、いかにすり合わせるか

繁野高仁さん


今は本質的なカルチャーは、合ってきたんですか。そもそもそういう話をする機会はあるんでしょうか。

繁野
さすがに5年経ちましたから、今は何の違和感も無く一緒に仕事をしています。企業文化は理屈で創られるものではなく、毎日の仕事に追われながら共通の価値観が自然にできてくるのだと思います。そこから僕が思い出したのは学生時代の学生運動ですね。思想の違う者同士がいくら議論しても、理屈以前の問題なので(笑)


なぜ、それがいいのかという話自身が成り立ちませんものね(笑)。

繁野
最近読んだ『国家の品格』という本で藤原正彦さんがいいことを書かれていいます。あの人は数学者ですけども、数学というのは理論で戦うけども、理論の前提として公理があると。数学の理論というのはその公理から出発して組み立てる。その公理は誰もが正しいということを前提としている。だけど世の中のことって何が正しいっていう前提なんかないじゃないか、という一文があるんです。


正しいかどうかではなく、好きか嫌いかというのはありますよね。

繁野
要するに、そういう主観とか直感で最初の原点を決めて、そこから一生懸命理論展開しているだけ。その展開した理論だけをお互い議論したところで、原点が全く違っていたら…


噛みあうはずがない。

繁野
合併でもそうです。原点としての価値観が全く正反対なのに、理論で説明しようとしたって絶対に合わないですよ。そこはもう強引にトップダウンで「こっちだ!」というふうに示すしかない。直感とか主観の世界ですよ。そこはもう嫌われようがしょうがない。


全くおっしゃる通りです。蛇足になりますが、私も藤原さんと似た経験をしているので、大変共感して読みました。あんなに売れる前にですが(笑)。原点をどこにおくかは非常に大事です。

繁野
企業でも何でもそうですけど、いくら理屈を組み立てて装飾しても原点がまずければどうしようもないんです。それは稲盛さんがしつこく言ったことですね。稲盛さんのフィロソフィーはやっぱりそこなんですよ。人間として何が正しいかをきちんとやれと。だから「能力×熱意×考え方」、特に考え方だと。その考え方つまり原点が間違っていたら何をやってもダメだろうと。


ええ、特に原点がマイナスの方向で、下手に熱意があるとまずいですよね。

繁野
だから合併した時に大事なのは原点を合わせる作業です。原点がなかなか合わないですよね。それを本当に苦労して合わせていって、いい会社になっていく。その時の原点というのは、本当にピュアな「人間として何が正しいか」っていう善悪の感覚です。


合併があるとそういうことが必ず問題になるので、修行の場としてはいいでしょうね。合併がいいことか悪いことかという話ではなくて、その場に当事者としていると大きな影響を受けるわけですから。

繁野
受けますね。


そのことによって自分の考え方を見直せるという側面があると思います。

繁野
ただ僕もずっと単一の文化の世界で育った人間ではなかったです。DDIも京セラから来た人、NTTから来た人などなど、いろいろな人のごった煮ですから。それぞれにカルチャーがあって性格が違っていて、それはそれで面白くて。そういう人たちが何か一つの目標に対して頑張るのがベンチャーです。だからベンチャーのうちは原点が多少ずれても目標に対して収斂しやすいんですけどね。大企業になってきて安定してくると目標にベンチャーほどのシャープさがないから組織としてまとめていくのが難しいです。もう一度、原点をピシッ押さえるっていうのは大事なことですね。


そのためには大きな会社でも、とんでもない目標を立てていたほうがいいですね。なかなか達成しない目標を。私はそう思いますけども。

間近で見た経営のカリスマ、稲盛氏の素顔とは

繁野高仁さん

繁野
稲盛さんはそういう目標を作るのが上手いです。長期的な大きな目標を立て、それから目先のニンジンをぶら下げて、届きそうで届かないみたいなところへ…


上手く誘導していくわけですね。

繁野
そうです。よほど頑張らないと到達出来ない、でも到達出来ないわけじゃない。そういう目標を次々と見せる。


繁野さんがご覧になった稲盛さんという方は、どういう方ですか。

繁野
僕は、稲盛さんはどこまでも真理真実を知りたいという純粋な心の持ち主で、非常にピュアな人だと思います。一つ特徴的だと思うのは論理的な人だということです。やはり理科系の技術者ですから、極めてロジカルに考える。そばにいて思ったのは、いろいろな判断もさまざまな情報をきちんと分析してロジカルに組み立てて行うんだけど、ただそれがものすごく早いんですよ。考える視野が広いから普通の人があまり思いつかないような考えを出しますけど、それはあくまでロジカルに組み立ててある。原点はピュア。何が正しいか、そしてなるべく公明正大にやるというのを原点にしてロジカルに組み立てる。徹頭徹尾そういう人ですよ。

それから、ある意味潔癖主義なところがありますね。大胆なところと緻密で潔癖主義なところが共存しています。潔癖主義で、経営もロジカルに追求したいという思いが強い。そうすると経営には人間が一番重要であり、人間をよく見ると心の問題が重要なわけです。そこからロジカルに入ると宗教みたいな話になる。稲盛さんはそこが誤解されがちですが、最初から無条件に神様を信じてとかそういう話じゃないんですね。ロジカルに自分の体験から考えて突き詰めていくと、心の問題に行き着いて、その問題をいろいろ議論していくうちにこうなってきた。そういう感じがします。


やはり深く考えると心の問題、人間の問題には、必ずどこかでぶち当たりますよね。

繁野
そうですよね。人間はなかなか分かりませんものね。


いや、分かりやすいと言えば、分かりやすいんだけど、自分に都合よく理解している人が多い(笑)。実は人間って身勝手だったり、好き嫌いに理屈をつけるという習性がある。最初から「嫌いだ」って言えば話が早いのに、いくら理屈で説得しようとしたって、そもそも、それがムダですよね。それから世の中もロジカルに組み立てられた部分と、いわゆる理不尽な部分がある。7対3くらいで、3くらいが理不尽くらいだとちょうどやりがいがある仕事かなと私は思います。

実は好き嫌いが原点にあるんだけど、それをごまかすというか忘れようとするために、どんどん細かいところに凝っていく人って多いじゃないですか。それに対して繁野さんはいつも基本的な考え方をまず見ていかなければいけないということを、講演や記事の中でずいぶん言われていますよね。

繁野
どうしても自身の感覚として全体が分からないとか、自分の位置が分からないと不安でしようがないわけですよ。何かにぐっと入り込むにしても、そこをちゃんと理解した上で安心した状態で個別のことをやりたいという思いがありますね。そういう意味では、何か勉強するにしても、これをやっていることが全体の中でどういう意味があるんだということがまずないと、意欲が湧かないじゃないですか。


でも、それがない人が多いですね。

繁野
他人に指示されたことをやるだけでしたら、自分のやっていることの意味など考えない方が効率的ですよね。だけど、僕は自分の人生を他人任せにはしたくない。

大きなプロジェクトが一段落し、若手への権限委譲が視野に

繁野高仁さん


これまでのKDDIさんの歴史の中でずいぶん苦労もされてきたと思いますけども、今の時点で何が一番の課題だと思われますか。問題ではなくて、目標としての課題ということで。

繁野
この連休明けに大きなプロジェクトのリリースを迎えるんです。これに合わせてここ数年やってきたんで、とにかくこれを成し遂げたいというのが当面の課題です。
それはさっき言った、ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプの次くらいの感じ。僕が今までやってきたことの集大成みたいなイメージがあって、ここをきちんとやり切りたい。最近のシステムは昔と違って影響が大きいので怖いですけども、まあなんとかなるだろうと思います。今回のプロジェクトは大規模なシステム構造改革ですので、創業期からやって来た僕でなければリスクを負うのが難しい仕事だと思っています。従って、このプロジェクトの大きな目標は、二度とこのように大規模なシステム構造改革をしなくても良いようにすることなんです。僕がいつまでもいるわけではありませんからね。今の自分の仕事がもっと若い人に務まるのであれば、その人に早く仕事を任せるべきだと思います。逆に言えばそういう状態を作るのが僕の使命ですが、徐々にそれが出来つつあるとは思います。


それは人が育ってきたということでしょうか。

繁野
ええ、人も育っていますしね。そんなに長くはかからないとは思うんですけど。ただこの業界は動きが激しくて、合併などの大事件が突然降ってきますのでね。


その時になってみないと分からない部分がありますよね。

(次回に続く)

構成;萩谷美也子

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