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2006年12月29日

【林衛の業界探求シリーズ】第ニ回 「できる営業担当者」と「できるPM」はオーバーラップする部分がある

佐藤成徳さん

佐藤成徳氏プロフィール
日本ヒューレット・パッカード株式会社
執行役員 通信・メディア営業統括本部長
1984年日本 ディジタル イクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社以来、一貫して大手通信事業者向けにシステム営業を担当してきた。止めて はいけないシステム、大型のシステムなど通信事業者の基幹システムを数多く手がけてきた経験を持つ。

シビアになったプロジェクト環境:

佐藤成徳さん

佐藤
ここ10年で何が変わったかということをメーカーとしての立場から言いますと、最も大きい変化は「ハードウェア製品の単価が明らかに下落している」ということです。例えば、10億円のプロジェクトであれば、10年前であれば製品の含まれる価格はだいたい半分から60%でした。40%がいわゆる開発の価格です。しかし最近の10億円プロジェクトがどうなっているかというと、だいたい8億円から9億円が開発なんですよ。1億円から2億円くらいが製品の価格です。


サービスにどんどんシフトしていて、もはやハードメーカーと言うよりはシステムインテグレータですよね。そこをちゃんと理解していないと営業は失敗します。

佐藤
そうです。あとはお客様とのビジネスの進み具合、プロジェクトのスピードが速い。昔ですと3年くらいでやるプロジェクトを1年とか半年でやっていかなくてはいけない感覚なんです。それをこなしていくために必要なスピード感や決断力の速さが求められる比率が、10年前と比べて明らかに高くなりました。


私たちから見ても、通信系のプロジェクトは非常に難易度が高いと思います。いわば医療にたとえると「心臓手術」とでも言うんでしょうか。

佐藤
ええ、システムを生かしながら、いろいろなサービスをカットオーバーしていきますから。


そのようなシステム開発は、複合臓器手術のようなものですね。一回心臓を止めたら死んでしまうので、止めることはできない。品質は金融機関レベルが要求されて、しかも期間が短く費用が安めになっているのが特徴かと思います。非常にハードです。
ですから営業の方も最初から成功シナリオをきちんと作ってとりかからないと、ボタンを掛け違えてしまうとたいへんなことになってしまいます。

佐藤
最初の段階でのボタンの掛け違いが、後半になってきてから大きくなっては困りますよ。とんでもないことになります。


それは本当に笑っていられない事態ですよね。

営業も最低限のPMの知識を

佐藤成徳さん


私は、技術者の育成についてはずっとやってきたから分かりますが、営業の方ってどうやって育てるんでしょうか。いわゆるたたき上げの営業という人もたくさんいますよね。そうではない育成方法というのはあるのでしょうか?

佐藤
答えになっているかどうかわかりませんが、営業にもやはり経験しないと分からないことがたくさんありますね。私はプロジェクトタイプのビジネスの営業を若い時からずっとやってきて、自分自身が困った経験がたくさんあるわけですよ。今でも覚えていますが、最初にプロジェクトをまかされた時に、工程会議で品質の収束曲線だとか言われたんですけど、何を何のためにやっているのか全然分からない(笑)。そういう試験の進捗グラフですとか、試験項目の工程表があるわけですが、それが何を指すのか最初は分からないわけです。あれには本当に参りました。そういうこと一つとっても、何のためにこれをやっているのか分かっているか分かっていないかで、出だしから全然違いますよ。


その違いをご自分で経験された。

佐藤
でも、今の営業があえて同じ苦労をする必要はないんです。教えてくれるところがあれば教えてもらえればそれで済む。そのほうが断然速いですしね。今回営業へのPM研修ということを考えたのは、これまでの自分の経験から「営業もPMについて最低限の知識が分かっていればだいぶ違うんだろうな」と思ったわけです。特に、先ほど言いましたように、状況が厳しくなっていますから。もちろん、若手にはこれからそれを身につけてもらわなければ困るんですけど、意外に中堅どころでもそれをやったことがないという人が何人かいました。


会社が合併したりすると、そういうことは起こりますよね。

佐藤
そうですね。そうすると今度はプロジェクトマネージャ、開発側のほうから「このプロジェクトに関して営業が何もしてくれない」というクレームが来るわけです。その担当の営業に「どうなっているんだ」とよくよく話を聞くと、話が噛み合わないんですね。要はプロジェクトがまったく分かってないわけですから、噛み合わないはずですよ。やっぱり分かっていて仕事をするのと全く分からないで仕事をするのとでは、全然違いますね。


雲泥の差がありますよね。今まで、社内では営業の方がSEの教育を受けるということもなかったのですか。

佐藤
技術教育と言うよりは、製品に近い教育はある程度ありますが。


ソリューションの仕組みとか工程とか、プロジェクトではどこでどんなことが起こっているのかであるとか、どのへんが大切なんだとか、そういうのはあまり教わっていないという感じなんですね。

佐藤
そういう体系だったトレーニングはたぶんないと思います。


実は今私が困っているのは、SE自身がその教育を受けていないことが多いことですよ。「次、何をやったらいいのですか」というような水準の低い会社も見受けられます。怖い話ですけど。今回PM研修を受けた御社の営業の方のほうが、分かっている人の比率が高くなっているかもしれません(笑)。残念ですが、それが今の日本のIT業界の現状です。

営業とPMには重なる要素が多い

佐藤成徳さん


今回の教育の中には、わざと失敗して「これが本当だったら怖いことになっていたな」というのを思い知っていただく部分を入れました。PMとのチームワークを良くするにはそこを理解していただければ非常にいいのではないかなと思います。ちなみに受講された皆さんの「リスクと見積もり」についての意識はとても高くてすばらしかったです。始める前は興味をどのくらい持っていただけるかちょっと心配だったのですが、比較的楽しんでいただいたということでほっとしました。

佐藤
そのあたりは受講生たちもかなり印象に残ったようです。


私の側がこれをお引き受けしたのには二つの理由がありました。一つは、PMがプロジェクトを背負った時にはもう遅い、すでに問題を内包してしまっているという実態があるのですよ。そうするとその前工程をやっている人に理解してもらわないといけないという、ちょっと真面目な問題意識です。もう一つは、「営業にPMを教えてしまったら面白いぞ」という、問題意識というより関心でした。いったいどうなるのだろうと(笑)。エッセンスを教えられるかどうかというところでは、まあまあ上手くいったと思います。講師もそのエッセンスの部分をうまく出してくれたようです。やはり講師もPMとして苦労した経験があり、営業に「ここをお客様に聞いておいてほしいのだよ!」とか、お願いしたいことや思いがいろいろとありますので。

佐藤
講師ご自身の苦労がそこに反映されているわけですね。受講者も、講師の苦労話がよかったといっていました。


もうひとつ、先ほど、佐藤さんからお話を聞いていて思ったのですが、やはり「できるPM」というのは、非常に「できる営業担当者」とオーバーラップしていますね。本当に資質が似ています。PMというのは4割くらいエンジニアで、勿論いろいろな技術的なことを知っていないといけないのだけども、6割くらいはエンジニアじゃないんですよ。営業と同じような部分があります。それで言えば営業の方は8割営業で2割エンジニアなのかもしれない。比率がちょっと違うだけで資質は同じという気がしますね。

佐藤
きちんとやれるプロマネは、たぶん営業の部長をやらせてもそこそこできると思います。


そうですね。まあ、いろいろなものが見えすぎて、わりと堅めの営業になるかもしれませんが(笑)。
PMと営業がお互い「知らない」ことで無駄な苦労をしていた段階から、相互に乗り入れてよいチームワークを組めると、プロジェクトはかなり良い方向に変わってくるでしょうね。やはり問題意識の源泉は関心があるかどうかですし、相手の立場を知ることは非常に重要です。

若手が苦手な応用力をいかに鍛えるか

佐藤成徳さん


今漠然とお考えになっている程度で結構ですが、今後の展開をどのようにお考えになっていますか。せっかくの機会だからもうちょっとこの辺をてこ入れしてやろうとか。

佐藤
プロジェクトというくくりではないのですけども、最近の若手の営業マンというのは決められたことをやることに関してはものすごく長けているんです。これをやってくれと言ったことに関しては100%きちんとやってくれるタイプが多いのですが、何もないところからものをつくる能力は比較的弱い。


確かに若い世代には、材料があれば組み立てられるが、材料を探して来るところからやるのは苦手という傾向は感じますね。

佐藤
何もないところからかたちのあるものをつくる能力が薄いのですね。なかなかそういう機会もないですし。前は新規の開拓をしなといけないという状況が結構ありましたけど、今は組織に入って来たら基本的にお客さんがいて、そこからスタートしますから。


そうそうニュービジネスは出てきませんからね。

佐藤
それでもお客様と話をしていく中で、お客様が今何に困っているのかというお話から新しい仕事につながりそうなヒントがつぎつぎと出るケースもあるんですよね。ところがそういう観点でものを聞いていないと、せっかくのヒントをそのまま聞き逃してしまうのです。


ビジネスの種を拾えませんね。

佐藤
とても拾ってこれない。これは怖いですよ。上司としても気をつけないといけません。「何でこの前お会いしたときにそのお話が出ているのに、お客さんともっと突っ込んだ話をしないのか」と聞くと、「いや、僕はこれを売りに行っているから」と言うわけです(笑)。


なるほど。最初からスコープが決まっていると信じている。(笑)。
本当によく考えている人っていうのは、ただ雑談をしているときでもネタの振り方とかを敏感に捉えて、いろいろ応用が利きますよね。要は、営業にしてもPMにしても今まで論理的で真面目であればだいたい上手くいっていたのが、状況が多様で複雑になってきているので、選択をしたり想像をしたりという能力が必要になっている。単なる真面目を超えなきゃいけません。どうやってそういう人たちをつくっていくのかというのを考えるというのも、私自身の課題のひとつです。世の中全体の課題でもありますよね。応用が利くタイプの方は、実はお客さん側にも少なくなってきていますから。

佐藤
そうなんです。お客さん側にも少ない。


電力やガスなどの分野はかなり成熟してきているけども、通信の分野はまだまだいくらでも応用が利くと感じています。

佐藤
特に最近の通信分野は、他の産業と複雑に絡んでいくようになっています。例えば「iD」と言われているクレジットカードのサービスは、もともと金融機関のサービスですからね。それが携帯の中に入っています。逆に製造業さんですと、モバイルの機能を使って自動車に搭載してというようなことになり、通信の技術が今度は製造業のほうへアメーバ状に突き出してきています。


柔軟であればあるほど、面白いビジネスができる環境ではある。そこで決まりきったことしか見ることができていないのはもったいないですね。

佐藤
そうですね。


いっそ、とんでもない世界で修行をするというのはどうですか。インドに半年行って来いとか。今技術者向けにそういう教育を私たちは提供していますけど、今度営業担当者向けのコースも作ったらどうかと思っているのです。一度凝り固まっているのを壊して、柔軟でタフなマインドを身につける。現在インドで行っているのは技術を教えるというのが前提の教育コースですが、今まで生まれ育ったのとは異質のとんでもない世界に行って自分の常識が通用しないと、人間は変わります。自分がいかに幸せか。スタンダードの中だけで生きていたのかというのが分かりますよ。

佐藤
そういうことですよね。そういう体験がないとなかなか変わらないのかも。


インドではなかったですが、私自身もそういう経験をしているのでなおさらそう思うのです。インドに限らなくても、別の世界で何か経験させる。もちろん、そういう状況に向かずにつぶれてしまう人も出るかもしれません。厳しいようですが、それは柔軟さとタフさが必要な職種に適性があるかないか、早く分かるということです。足下で育てれば真面目でそれなりだけど、それなりでいいのかということです。面白くないでしょう。死と直面するほど過酷な経験はやめたほうがいいけど、異文化というか異次元の体験は効果的です。
他には、たとえばある鉄道会社の社員の方を当社でコンサルタントとして預かっています。これも一種の異文化体験ですね。営業も預かろうかと思っています。わが社では営業職が不足していますし(笑)。

佐藤
価値観が全く違うところに放り込むというのも面白いかもしれないですね。


ええ、ぜひご検討ください(笑)。
今回は新しいご提案をいただいて実施させていただいたおかげで、私たちも非常に刺激されました。こうやって営業の世界のことも教えていただき、また問題意識が広がります。本当にありがとうございました。

(おわり)

構成;萩谷美也子

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