プロジェクトマネジメント、プロジェクト管理におけるポータルサイト

HOME > プロマネの勘所 > 【新春放談】第一回 複雑化の時代だからこそ単純な目標を

2007年1月 9日

【新春放談】第一回 複雑化の時代だからこそ単純な目標を

対談から見えた2006年という状況

― あけましておめでとうございます。本日はよろしくお願いします。


正月だからなるだけ明るい話題にしましょう。といっても、置かれている状況は厳しいから、いろいろ差しさわりがある話題が出てきてしまうと思うけど(笑)

― まずお二方には、2006年をざっと振り返っていただきましょう。
林社長は、昨年「業界探求シリーズ」で対談されました。能登原さんもずっと「プロマネへの道」で対談されています。対談相手としては、林社長はトップまたは経営に近い方、能登原さんは現場でバリバリやられている方との対談が中心なので、立ち位置が若干違います。そこを振り返ることで、2006年の状況が見えてくると思います。


昨年の対談のゲストはKDDIの繁野さんとカシオの矢澤さんでした。お話してみて分かったのは、「分かっている人は分かっている」ということです。対談したお二人とも、それまでは私と大して接点がなかったのに、お話してみると、ほとんど同じ問題意識や展望を持っている。そして実際に自ら行動を起こしている方々であることを強く感じました。こういう人たちがリーダーであれば、現在のIT業界が置かれている状況を変える力はあります。これは2006年に感じた明るい面です。
一方、だめな人はいつまでも同じことで悩んでいるので、前に進まないままなのです。しかし、果敢に前に向かって飛躍を試みる人もいるわけで、その差がどんどん広がっている感じを受けましたね。KDDIの繁野さんは飛躍を試みるほうの典型で、対談後に突然お辞めになって他社のパートナーになってしまいました。また一緒に仕事が出来そうだし、楽しみにしています。
私にとっての2006年は、将来展望に対する新しい兆しが、対談することで確信できた年です。

― なるほど。その「新しい兆し」についてもう少し詳しくお話いただけますか。


新しい兆しというのは、IT業界内においても、人によって明暗がはっきり分かれるということです。しっかりした考えを持って、確信を持って進むかどうかが、その人なり組織なりの明暗を分けるでしょう。そう思うようになったのは、対談のおかげかもしれないですね。混沌として複雑で読みにくい時代であるにもかかわらず、それを別の形で経験してきた繁野さんや矢澤さんが、私と同じ問題認識を持っていることに気がついたことが大きいです。そこで、今まで自分の抱いてきた見通しが確信に変わり、実現の可能性が高まっている気がします。KDDIの繁野さんのように、組織の問題認識や将来像に対する高い次元の目標を持っている人が、思い切った転身をするというのも面白い変化です。
カシオの矢澤さんとは、初めてお会いしたのに、感覚が非常に似ているということに驚きました。特に印象的なのは、「アーキテクトという存在がないと、これからはやっていけないですよ」ということで、対談の場で私がITに関わる人たちのロールモデルを書いた。そうしたら、二人でホワイトボードの前で、「その通りですよ、林さん」「じゃあ、一緒にやっていきましょう!」というような展開になったのには、私もびっくりしたし、非常にうれしかったですね。決して「よいしょ」ではありませんよ(笑)。
最初は初対面でお互い固くなっていて、それがだんだん、やってきた仕事の中身や考え方や趣味を確認していった結果、いい大人が2時間後にはもう友達になってしまいました。それは喜びですね。昨年、その前からずっと流れがあるのを感じていましたが、ようやく昨年が変革の確信が持てる年となりました。今年は、もう前に行くだけですよ。

― 能登原さんはいかがですか

能登原
今年は、最初にCCSの三河さんに会いました。三河さんは、元々会社の後輩だったので以前からの知り合いだし、性格や目標、それにやり方というのもよく知っていましたが、対談して改めて分かったこともありました。
三河さんは、新しいアーキテクチャ、Javaのフレームワークを使って、しかもプロジェクトのシステム開発のやり方にCoupという方法論を使って仕事をしています。そういうふうに自分の型を持って「システム開発をきちんとやっていこう」という目的に注力しているのですよね。しかもそれが、彼にとっては楽しみであることが、よくわかりました。そういう形でプロを目指している人がいるのだから、「日本もまだまだ捨てたものじゃないな」と思っています。そういう人がこれからどんどん増えていかないといけないですね。まず、それが一つです。

― かつての後輩の成長した姿は、うれしいですよね。

能登原
それから、次に対談したのが中山さんです。三河さんもそうでしたが、中山さんは、非常に仕事を楽しんでやっていますよね。楽しそうに仕事をしている様子が、お話の端々から伝わってきました。やはり、「仕事が楽しい」ということはとても大事で、それこそがよい仕事をする原点だと思います。
しかも実際の仕事内容は、経験とともに変わってきています。最初は、データ中心設計(DOA)の技術を持ちながらシステム開発をしてきて、そのあとはプロジェクトのリーダーを務め、今はシステム部門の長として活躍されています。また長という立場になってからも、何かやるときは必ず、中山さんらしさを加えられているところがすごいと思います。次の仕事にあたるときには、何か新しい改革、何か違ったことに必ず挑戦していて、本当にいつも前に進んでいます。そうやって、楽しく仕事をしているのには、非常に共感を覚えましたし、素晴らしい人だなと思いました。

― 現場の開発でのお話もだいぶされていたようですが。

能登原
そうですね。中山さんのお話でもう一つ印象に残っているのは、イテレーションの開発には、パッケージが一番向いているということです。パッケージは、最初からモノがあるので、イテレーション開発はパッケージをもとにするとやりやすいというお話でした。しかも実際に、それをプロジェクトで推進しているというところがまた、中山さんのユニークなところですね。実は、一般的にはなかなかそういう発想になりません。DOAを専門にすると、どうしても学術的な方向に進む人が多いのに、実践で本当にできることをきちっとやっています。これは素晴らしいなと思いました。
でも、最も対談して一番びっくりしたのは細川さんですね。

― それはどういったところで、驚かれたのでしょうか?

能登原
僕が知っていたのは、アーキテクトとしての細川さんです。細川さんは、新しいデータモデリングとか新しいプロジェクト指向とか、そういうものに非常に強い方です。しかもそれらを推進されていたので、アーキテクチャが専門かなと思っていました。ところが、対談のときにルーツをたどると、カード事業の現場で、システム開発の非常に厳しいところをずっとやられた経験があるのです。その経験のあとにアーキテクトの世界に行って、また現場の世界に戻っているということでした。やはり、できる人たちというのは、広い見識や知識や技術を持っているだけでなく、いろいろなことも経験しています。だから裾野が広いのだと思いましたし、その上で余裕を持って仕事ができているのだなと感じました。

複雑化の時代だからこそ単純な目標を

― 2006年は、一言で表現すると、どういう年でしたか。

能登原
僕は「漸進」(だんだんに進む)とでも言いましょうか。あるいは「着実」。日本全国、着実な歩みだったような気がします。


そうですね。急激な変化ではないけど、着実な歩みが見られました。そして、新しい試みや改善が定着した年でしたね。
特に2006年は、プロジェクト自体が複雑化する状況の中で、単純な目標が創出できた年だと思います。例えば「プロジェクトチームの雰囲気を明るくしよう」とか「一つ一つのプロセスをちゃんとやろう」とか、そういう目標です。みんな複雑で難しいものに取り組もうとすると、ついつい難しく考えがちです。そうではなくて、もう一回原点に戻って、目指すものは何かを、もっと単純に考えればいいのです。「明るい業界にしよう」とか「役割を見直そう」とか、それから「本当に使える技術や方法論は何だろう」というところからきちんと積み上げていけばよい。それが分かってきた一年だったと思います。
もちろん、単純な目標だって実現するのは難しいです。難しいが取り組もうと決めるのです。そこにフォーカスを当て、複雑なものを単純に考えることの効果を確信できて、やっと進むべき道が分かったという感じがします。単純なものを複雑にする人というのはたくさんいて、今まではそれがIT業界内に蔓延していましたが、その逆を行くわけです。世の中の雰囲気が、「努力は惜しまないから、方向感覚をきちんと定めよう」というふうに変わってきました。それによって、目指すべき方向に照準がだいたい合ってきたと思います。

― 「明るい業界にしよう!」でいいわけですか。


そうです。とにかく明るくしなければ、業界は発展しないでしょう!?(笑)。プロジェクトは複雑化しているのだけど、複雑なものほど整理整頓というか、きちんとルールを作って「ちゃんとやる」ことが大切になってきます。
オブジェクト指向は、考え方は、正しいです。しかし適用方法が、まずかった点があったと思います。アジャイル的な発想で何でもできそうなムードをつくってしまったのは、あまりよくなかったと思います。そういう、現在のITを巡る状況がしっかりと整理されて、繁野さんや矢澤さんのように、きちんとした考えをもっている人たちには、「ちゃんとやる」ことの重要性が見通せるということでもありますね。 

能登原
林社長の好きなドラッカーに関連して言うと、ドラッカーが言っていることは、全部が原理原則なんですよ。非常にシンプルで、著書の中でも原理原則についてしか話をしていません。そういう原理原則が大切だということが改めて認識された年でもありました。

― 2006年においてドラッカーは一つのキーポイントになったのですか。


ドラッカーは2005年に亡くなりましたね。

能登原
ああ、2005年の後半でしたね。


亡くなって改めてその良さが分かったのが2006年ということでしょう。これからもう一回ドラッカーを読む人が増えるのではないかと思いますよ。実際増えてきているでしょう。

― もう新刊が出ないのが、ちょっと淋しいですね。


ドラッカーは、何で社会生態学を提唱したかというと、意識・人・マネジメント・経済はその全部が目に見えない部分でつながっていると考えたからです。だから、ある状況下における人間の振る舞いは、単純には計算できないと言っているのです。そのちょうどよい例だなと思ったのが、最近何かの記事で紹介されていましたが、新幹線の中でワゴン販売をしている人の話です。ほら、新幹線の中で、ワゴンを押してきて、コーヒーやアイスクリームやお土産を売っている人がいるじゃないですか。そのワゴン販売で2年連続売り上げ日本一になった人がいるという話です。
しかもその日本一になった人は、時給1200円らしいのです。目標を達成すると報奨金が付くので、平均すると時給1700円ぐらいもらっているという話ではあるけれど、正社員ではなくて2ヶ月更新のアルバイトなのですよ。その2ヶ月更新のアルバイトの人が、なぜそれだけの売り上げを上げることが出来るのでしょう。その記事では、ある偉い人が、彼女が毎日やっていることや心構えを聞いてたいへん驚き、「全く経営者と同じ感覚を持っている」と高く評価していました。でも、その日本一の人自身は「でも私は、この仕事が好きで目標を持っているから、これをやり続けます」と自然体で答えているのです。

― 販売する人によって、そんなに違うものなのですか。


理屈で考えたら、狭い車内で同じように人がいて、そこを何往復するかだけなのに、なぜそれだけ売れ方の差が出てくるのか不思議に思うでしょう。その人がやっていることは、一見単純で些細なことなのです。例えば、あんパンやジュースをひとつ売ったとします。そうしたら、買ったお客のところをもう一回通るときに、「いかがでしたか、お味は」と言うのだそうです。だからといってお客がもう一個買うわけではありませんよ。でも、それを淡々とやり続けると、やはり違いが出てくるのです。それから、商品をワゴンに積み込むときに、冷えてなくて生温いジュースの缶があると、自分の品質感覚と合ってないからすごく腹を立てるらしいです。そういうことまで、こまごまと気遣いがあり、改革精神を持ったアルバイトなわけです。それを何年間かやり続けてトップになっているということでした。

― なるほど、それはすごいですね。


その話を読んだとき、ドラッカーじゃないけれど「ああ、全部つながっているな」と思いました。プロジェクトも同じですよ。理屈では絶対うまくいきません。

能登原
ええ、その通りです。理屈ではうまくいきませんね。


やはり、これは原点の話です。単純な仕事であっても、「ただ、こなせばいいんだ」ということではなくて、工夫したり考えたり、問題意識を持って取り組むということが、どれだけ現場で力を持つかということでしょう。「自分は売り子だから、アルバイトだから、マネジメントのことなんて関係ない」と言ったら、もうそれでおしまいです。それが売り上げトップの彼女と、普通の売り子さんの差だと思います。理屈ではなくて、お客さんはその人がワゴンを押して現れた瞬間に買いたくなるわけでしょうね。何か知らないけど。余分に買ってしまうわけですから、気配りの固まりのような彼女ならではの波動が地下を伝わってお客さんに影響を与えるのかもしれません(笑)。そういうふうに、見えないところで全部はつながっているのですよ。だからこれは、非常に示唆に富む話だと思います。

(次回に続く)

構成:萩谷美也子

| トラックバック[0件]

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://www.promane.jp/blog_manager/mt-tb.cgi/457

↑ このページの先頭へ