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2007年1月19日

【新春放談】第二回 「やるぞ!」という気持ちを支えるスキルと体力

基礎や基本の大切さがはっきりと見えてきた

― 2006年は、シンドラーのエレベーターやパロマの湯沸かし器事故など、本来は当たり前のことをきちんとやらなかったがゆえに、問題や不祥事が多発した年でもあったような気がします。


そのようなゆがみが表面化し、さらにそれを反省する動きが、社会全体に出てきたのが昨年だったと感じます。

能登原
結局は、全部が基礎力の問題だと思います。基本がきちんと身についているかどうかが、とても大事ですね。教育もそうです。ゆとり教育で、基礎が身についてない子どもたちを大量に生み出してしまった。その弊害が、今出ています。


やるべきことの逆の改革をしてしまったので、確かに基本ができていないですね。

能登原
スポーツにもそれは当てはまります。日本の野球は、なぜWBCで勝つことができたのかといえば、やはり基本がきちんとしているからですよ。たとえば、田口選手だったら必ずバントができると思うからこそ、代打に送ってバントをさせるわけです。そして実際にきちんとバントできるわけですが、それは基本ができているからです。

― 昨年、能登原さんはブログで、落合ドラゴンズについて書かれていましたよね。落合監督は、ヒルマン監督とどう違うのですか。

能登原
ヒルマン監督も、戦い方としては似ているところがあると思います。

― それなのに、なぜドラゴンズは勝つことができなかったのでしょう。

能登原
そこには「勢い」という概念が入ってきます。ドラゴンズは、日本シリーズのとき、ちょうど下り坂に入っていたのではないでしょうか。どうしても勢いには波がありますよね。最高潮からちょっと下がってくるところに、たまたまあたってしまったせいだと思います。


一方の日ハムは、奇跡的に勝ちました。勢いに乗って上がってきて、いつ落ちてもおかしくない「崖っぷち」の状態をキープしていたわけです。だからもしも、ドラゴンズが一回逆転していたら、日本シリーズの勝敗は分からなかったと思いますよ。ドラゴンズが勢いづいて勝ったかもしれない。チャンスがあったときに一回勝っていれば、いい勝負になったはずです。もはやマネジメントの巧拙ではなく、それを超えた世界の話だったと思います。

能登原
ドラゴンズが、ここ一番でヒットを打てなかったということもありますね。ここ一番で打てるかどうかというのは、基礎力・基本のあるなしとは、また少し違う要素が入ってきます。


そうですね。リーグ優勝が一番のピークだから、そこで力を使い果たします。そのあとは、体調やちょっとした状況変化によって、相当影響されてしまうのです。後になればなるほど、メンタルな部分が効いてきます。

― それに比べて、サッカーはどうでしょうか。

能登原
見ていると、日本のサッカーは走り込みも足りないし、歴史が浅いだけにトラップなどの基本的な動作が劣るところがありますね。外国の選手は、パワーもスピードもあります。また、しっかりとトラップを止めるとか、自分の思うところにパスをするという基本ができています。


それに教育法が違いますよ。欧米では、選手に自分で気づかせて納得させているでしょう。日本はまだまだ管理教育で、「こうやれ、ああやれ」と上から教えられます。自分で考えて成長しないから、上から教える人がいなくなったら、そこで終わってしまうという弱点がありますね。

能登原
ただ、野球の場合は、やっぱり歴史が長いせいか、基本ができている分着実ですよね。だからドラゴンズのように、守りきって勝てる可能性があるのですよ。


落合監督は、危ない試合で相当勝っていますね。一点差で勝っているのも相当あるし、危ない試合で耐える力があります。

能登原
ええ、「一発エラーしたら、そこで完全に負けてしまう」という状況に耐える力がありますね。やはり基本があると、その差がつくのですよ。

― 危ない試合でも基本があると勝てるから、さらにその経験が積み重なっていくというわけですね。

能登原
そうです。だから、ここ一番という試合でまたしっかりと勝てるわけです。


基礎がしっかりしていると、建物でいえば土台がしっかりしているということだから、積み上がる高さが違います。そういうことに、2006年はみんな気がついてきました。20年ぐらい前、メソドロジーが大事だといわれていたころに、もう一回戻っている感じですね。アーキテクトが大事といわれ始めたでしょう。多少バージョンアップされていますが、その本質は変わりません。2006年はそのように、振り返って再度目標が立てられた年だと思います。
もう一つ、精神面が見直されてきました。ドラッカーの著書の半分は、心の部分に焦点を当てて書かれています。ドラッカーは、人間が本質的にどういうものかよく分かっているので、経済、マネジメント、会社、チームを、社会生態学の枠組みでとらえます。プロジェクトマネジメントは、まさにドラッカーの言う社会生態学であって、理屈の中にもマネジメントの基礎があるし、人間学の中にもやはり基礎があります。その両方の基礎がしっかりできていくと、かなり高い目標を超えられます。それぞれの人が持っている力を合わせて、違うパワーを生み出すのが、本当のマネジメントです。でも理屈からだけ考えると、それが分かりません。前回の新幹線のワゴン販売員の場合でも、「お客様に挨拶したからといって、売り上げが増えるとは思えないから、そんな無駄なことはやめよう」といって切り捨ててしまうかもしれません。アメリカの悪い面は、そういうふうに理屈で切り捨てがちだということです。日本の場合は、理屈に合わなくてもやり続け、結果につながることが多いですね。

「やるぞ!」という気持ちを支えるスキルと体力

能登原
また基礎の話に戻りますが、昨年「プロフェッショナル」という番組で海上保安官の仕事ぶりを見ました。


本物の「海猿」ですね。

能登原
特急隊の隊長を紹介している番組だったのですが、とても印象的だったのが「気持ちだけだと、人は助けられない」と、その隊長が言っていたのです。人を助けるためには体力がいります。そのために、ものすごい訓練をしています。30メートルの深さまで潜って、パニックにならない訓練をやっているし、ものすごい体力作りもしているわけです。そうしないと、海難事故に会った人を救助できません。やはり、気持ちだけではなくて、スキルも必要ですし、地道な体力づくりのような基礎力が必要なのですね。システム開発もそうでしょう。たとえば、ウォーターフォールでやるシステム開発の手順を知らない人が、イテレーション開発はできませんよね。イテレーション開発のほうが難易度は高いのですから。


ゆっくりやってもいいシステム開発をちゃんとやれない人が、スピードを要求されるものを、いきなり上手くできるわけがないです。

能登原
そうですね。単純な原理ですよね。それから、設計はデータベースが中心なので、そこを整理するという基本知識がない人に、システム開発はできないですね。


いや、実際には知識がない人もやっています。だからプロジェクトがぐちゃぐちゃになっているわけですよ(笑)。

能登原
そういうわけで、基本やスキルがあった上で、違いを生むのが精神力ということではないでしょうか。精神力というか、気持ちですよね。チームワークがよくて、「絶対やらないといけない」と、モチベーションも高いから、困難な仕事がやり遂げられます。
基本力がない人に、あの隊長はできませんね。どんなに熱い気持ちがあっても、体が弱くては務まりません。やりたいという気持ちがあるのだったら、スキルと体力をつけなければいけないと、あの番組を見てつくづく思いました。


モチベーションとスキルの両輪ですね。その両方があって、はじめてよい仕事ができるのです。片方だけではだめです。

― その特急隊の隊長が「最後は自分の勘を信じる」と言われていましたね。ITの現場では、どうですか。林社長も、最後は勘だとよくおっしゃっていますが。


ITの現場でも最後は勘ですよ。その勘がだいたい当たります。もちろん、それには経験がものを言うわけです。あらかじめ「おそらく、こうなっていくだろう」とストーリーを立ててプロジェクトを見ているから、自分の勘が当たっているかどうかが分かるわけです。当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃありませんよ。

能登原
自分がPMならば、その直感力に基づいて自分で行動できますが、コンサルの難しいところは、相手を納得させる必要があるいうことです。勘に基づいているのだけど、理屈で説得しないといけないから、難しいですよね。


それにはものすごい訓練となります。その海猿のインテリ版のようなハードな訓練をすると、説得する力もついてきます。

能登原
コンサルは「インテリ海猿」ですね(笑)。海猿は救急隊ですが、コンサルもプロジェクトが火を吹いている現場に行くわけですし。


インテリ海猿ですが、本当の海猿ぐらいの体力もいりますよ。2日ぐらい徹夜しても「こんな問題全部解決してやる!」くらいの体力と気力は必要です。

能登原
その番組を見ていてもう一つ思ったのは、やっぱり疲れていてはだめだということです。自分の精神と体力が健全でないと、あれだけのことをやり遂げるのは無理でしょう。


だいたい健全で明るい方でしょう。きっと、すごい訓練をしても笑っていられるくらいに。

能登原
人間的にもいい人で、しかも、すごい男前なのですよ。俳優よりもこの隊長のほうが、ずっといい男だと思うぐらいです。演技ができるかどうかは別ですけど(笑)。


だからIT業界も、男前というところも含めて、レスキューに赴くインテリ版海猿を作らなければ(笑)。

― その番組でも、現場へ出ない間は、なるべく部下とコミュニケーションをとると言われていましたけど、そういう部分も大切ですよね。


それはもちろん大事です。でも、最近私が気になるのが、日本の場合、「やはりコミュニケーション力が大事だ」となったときに、手法に走りがちなところです。本当は、手法よりまず「気持ち」です。コミュニケーションに中身が入っているかどうかが大切で、そこで初めて、それを助けるためのテクニックが有効ですが、それが逆転して捉えられてしまう可能性があるのが悩ましいところですね。

能登原
もう一つは、そういう危機的な状況では、時間も限られているわけですから、判断のスピードが要求されるでしょう。そのときには冷静にならないといけない。そこで「自分が焦っていたり、心が穏やかでないと、スピーディーで正確な意思決定ができない」と、あの隊長は言っていましたね。そして、すぐに判断することが求められているときには、やはり自分の直感を信じると。


「ウォームハート・クールヘッド」ですね。そうやって即座に意思決定をした結果、万が一間違ったとしても悔いはないでしょう。きちんと行動して、持てる力を出し切っていますから。

能登原
そこですぐに判断して行動しないと、人が死んでしまいますからね。


医者の世界だってそうですよ。死にかけた患者を前にしたら、ゆっくり考える時間などなくて、すぐ判断しないといけない。そういう追い詰められた状況で仕事をする職業は、私たちの参考になりますよ。追い詰められたときには、人間の本質が出ますしね。

能登原
その一瞬の判断を誤らないために、基礎を必死でやっているわけです。スポーツもそうです。ボールが飛んで来るのは一瞬で、そこの一瞬でエラーするか、ちゃんと捕るかが分かれるわけですから。


ものすごく練習しても、一向にボールが飛んで来ないかもしれないですが(笑)。

能登原
僕が思うには、野球で一番大切なのはカバーです。常に「もしかしたら来るかもしれない」とカバーに入っていると、ボールが来たときに対応できますが、来ないと思っていっているとカバーできません。


ライトを守っていると、ファーストのカバーに入るから、毎回ずっと後ろまで走りますよね。

能登原
それを考えれば、仕事でも「あそこが危ないかもしれない」というバックアップを、常にどこかで黙って行う必要があるのではないでしょうか。


それは、黙って見てカバーするというのがポイントですね。「カバーはするから」と言い過ぎてもだめです。カバーしてくれるという気持ちが、油断につながることもありますよ。しっかり任せて、黙ってカバーをするというのがいいのです。いい会社はそういう体制ができていますね。

生産性を上げて、視野を広げる余裕を持とう

― 先ほどから野球の話、サッカーの話、海猿の話と、IT以外の話を出して例えられていますが、やはりITの人間はITのところだけに閉じこもっていないで、いろいろなことをどんどん見たり聞いたりして吸収したほうがいいのですね。


当然そうですよ。例えば、デジタルを扱う設計者であれば、芸術とか音楽とかに触れてしっかり吸収すると、立体的な視野になってよい仕事が出来ます。それを「ガウディなんて関係ないじゃないですか」ではだめなのです。音楽もどんどん聴いてみる。音楽は「こんなにいい音楽を作りましたよ」と言っても、聞き手が美しい曲だと思わなければ何の評価も得られないですよね。絵もそうです。実は人間の仕事というのは、そういう面をたくさん持っているのです。一歩、質の高い仕事をしようとしたら、あえて美しいという概念を目標に取り入れていかなければなりません。しかも、美しいというのが自己満足ではいけない。自分が思うだけではなくて、素直に美しいと感じとった周りの人の支持が必要なのですよ。そこをこだわってやれば、もっと素晴らしい仕事ができるようになります。

能登原
今、林社長のおっしゃったことは明らかに大切なことですが、僕は今のIT業界の人たちの現状の厳しさのほうが問題だと思います。やはり生産性が悪く、仕事が長時間労働ですよね。余暇を持って、美しいものに触れる余裕がないという側面もあると思います。


そういう面はありますが、かなりの部分が、その人次第ではないかと思うのです。「余裕ができたら、音楽を聴きに行くが、忙しいから行けない」と言っている人は、本当に余裕ができても聴きに行かないのではないでしょうか。勉強と同じで、本当にやらなければいけないと思っている人は、余裕がなくても、何とか時間を作り出してやると思いますよ。

― 周囲の先輩たちに余裕がなくて、目の前の仕事のみで終始してしまう人ばかりだと、若い人も「働くってそんなものなのかな」と思ってしまうのではないでしょうか。


残念ながら、それは今の日本全体に言えることかもしれませんね。

能登原
これは弊社の例になりますが、標準類やノウハウを社内で蓄積して回すことによって、それぞれの仕事の生産性が上がってきています。そうすると、今までは夜の11時までかかっていた仕事が、同じ質を維持しながら7時に終わるようになりました。生産性を上げることによって余裕ができると、本も読めます。そこから別のことへも興味が広がるでしょう。そういうことも、社会全体として考えていかなければと思うのです。
特にIT業界は、それを考えていかないと、「きつい、暗い、帰れない」と3K職場のような言われ方をしている今の状況から脱皮できないですよ。そのためにも僕は、生産性が非常に大事だと考えています。最初のスコープ決めから、見積もりやマネジメントも含めて、トータルで生産性を上げていかないと、いい仕事はできません。サッカーでもあまり試合が過密で疲労が抜けないと、けがしたり、下手をすると一生を棒に振る選手もでてきます。大体、よいパフォーマンスがでませんよね。そういうことが、われわれの仕事にもあると思います。

(次回に続く)

構成:萩谷美也子

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