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2007年2月 9日

【ドラッカーに学ぶ組織運営と人財のイノベーション】第二回 「仕事ができる人」になるための条件とは

上田惇生さん

上田惇生氏
ドラッカー学会代表理事、ものつくり大学名誉教授、立命館大学客員教授
上田惇生先生のホームページ
ドラッカー学会のホームページ

ドラッカーに惹かれる人たちの共通点


「ドラッカー漬け」とおっしゃいますが、私は上田先生とお話ししていて、インテリジェンスが高く、非常に受け皿が広い方とお見受けしています。やはり何度も何度も繰り返して極めることで、次に見えてくるものがあるように思います。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私も多少エッセーを書いておりまして、さきほど、上田先生にその感想をお聞きしました。実は、上田先生ほどではないにせよ、私にもドラッカーが乗り移っているような気がするのですが。

上田
乗り移っていると思いますし、乗り移るのが当たり前なのかもしれないとも思うのです。
なぜかと申しますと、ドラッカーの考えは広くてかつ深い。しかも先へ伸びているという感じがします。例えばドラッカーは、Web2.0という言葉そのものは使っていませんが、まさにそういう考え方が、もう彼の中にあるのです。きっと200年先になっても、「ドラッカーは私のために書いてくれた。」という人ばかりではないかと思います。そんなことは常識ではあり得ないですが、やはりそうなのです。
製造業の世界では、ドラッカーの頃はフォードやGMの成功のせいで自動車は、組み立てラインで生産するものだとされていました。しかし、ドラッカーは組み立てラインは人間工学的に間違いだと言い、今日の セル生産に相当するものを繰り返し唱えていたのです。実際にはセル生産は、ついこの間始まったばかりですけど、50年前にすでにそれを先取りしていました。このフォーラムで、これまで皆さんのお話をお聞きしていましたが、ドラッカーが50年も前に言っていることが、ITの最新の世界でも合致することに驚きました。先ほどもパネリストの方から「効率を求めるとルーティン化する。」というお話が出ましたけど、これなどもセルとラインの関係と、通ずるところがあります。やはり、自分のリズムで仕事をし、創意工夫をするからこそ、仕事も面白く製品もいいものができるわけです。

上田惇生さん

話を戻しまして、林さんにドラッカーが「乗り移っている」というお話ですが、ITの世界の方は、おそらくどなたでも、「自分の考えていたことはこれだ!」と思われると思いますます。なぜかというと、ドラッカー深く語っているのはマネジメントであり、情報であり社会というものだからです。そしてそれは、アート・アンド・サイエンスの世界なのです。
この間、北海道理学療法士会の学術大会で1,000人ほどのリハビリの先生方に講演したのですけど、リハビリの先生方には、ものすごくドラッカーファンが多い。それで、「リハビリとは何だろう」と調べてみました。理学療法をWHOがどう定義しているかというと、「アート・アンド・サイエンスである。」といっています。理学療法にアートとサイエンスの両方を求めているのです。そして実際にそれにかかわっている人は、「自分がやっていることはアートだ」と本心では思っています。その一部としてサイエンスの部分がある。そういう世界の人は、ドラッカーに夢中になってしまうのです。
ITという世界もまさにそうではないかと思いますし、林さんのお書きになったものを見てもそう感じます。サイエンスだけではないのです。サイエンスの部分もあるけれども、中心はアートなのです。そういう世界の人がドラッカーに乗り移られるのだと思います。


私も全く同感です。サイエンスのみではマネジメントできないですし、システム構築もできないのです。確かにマネジメントにもシステム構築にも、サイエンスの部分はありますが、問題はほとんど人が引き起こしています。今日の最初のパネルでは、やはり目標とかビジョン、モチベーションが話の中心になりました。技術という話がほとんど出てこなかったですよね。ITの世界が非常にアート・アンド・サイエンスであるという証拠ではないかと、私は思いました。

「仕事ができる人」になるための条件とは


それでは、非常にベーシックな質問をひとつ。上田先生がドラッカーから学んだ中で、ドラッカーは、仕事ができる人とはどういう人であると考えているのでしょうか。特に私たちのような知識労働者の場合についてお教えいただきたいと思います。ITの世界というのは、急速に知識・知恵を使う方向にシフトしてきていますし、今の世の中は大体がそうなっていると思うのです。そういう中で、「仕事のできる人」の定義はどのようなものなのでしょうか。

上田惇生さん

上田
たまたま私の大好きな言葉の一つを読みます。日本語は私の翻訳ですけど(笑)、ドラッカーは「成果を上げる人と上げない人の差は才能ではない」と言っています。これはうれしいですね。才能ではない。


今、「ああ、よかった!」と思いました(笑)。

上田
そしてドラッカーは、こう続けます。「幾つかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかの問題である」。習慣的な姿勢も基礎的な方法も、簡単に身につけられるものです。しかも、「組織というものが最近の発明であるため、人はまだこれらのことに優れるに至っていない」。もう、実にシンプルな話です。組織という形で人と人が一緒に働くようになって、まだ200年しか経っていない。


まだ新しいということですね。

上田
そうなのです。人間の歴史を振り返ると、メソポタミアやエジプト、黄河流域で灌漑文明がありました。人類が生まれてから灌漑文明に至るには、何万年もありましたが、灌漑文明で大きく人間の文明は発展しました。それから5,000年経って、産業革命が起こりました。産業革命によって生産活動が大規模化し、さらに生産活動に必要な知識が高度化し、複数の人間が、組織という形をとって、一緒に働かなければならなくなったのです。そういうふうに組織を作って働くようになってからは、まだせいぜい200年といったところでしょう。知識の高度化ということなら、100年かもしれない。だから、経験の蓄積がないのです。仕事が上手くできるための方法というのは、その100年、200年の間に次第に明らかになってきたわけです。
しかも今や社長だけが仕事ができても不十分です。昔はマキャアヴェリやソクラテスが、「王様がいい仕事をしてくれないと、臣民が困る」ということで、王子様に帝王学を教えました。しかし今や、組織全員仕事ができるようでないといけません。ですからドラッカーは、「万人のための帝王学」ということでマネジメントを開発したのです。それをみんなが勉強すればいい。特別な才能は要らないということです。仕事ができるようになるためには、ちょっと勉強すればいいのです。
ただ、ちょっと勉強する中身が大切ですね。例えば、成果を上げる原則というのが3つあります。1つ目は、貢献を考える。自分は何をもって貢献するのかを考える。それだけで違います。それから2つ目は、集中する。自分の得意なものに集中することです。3つ目は、ちょっと目線を上にあげる。基準を上に持っていく。それだけのことです。
マネジメントの各論に行きますと、例えば生産性の向上があります。肉体労働と知的労働では、生産性の向上の方法はおのずと違うわけです。林さんのご質問にありました知的生産の場合は、「貢献しない仕事はしない」ということが第一ですね。しないでいいことはしない。誰も聞いていない会議は開かない、誰も読まない報告書は書かせない。そういうシンプルなことができていないのはなぜかを、考えなければいけません。もちろんこれはあらゆる仕事ついてに言えることだと思います。

IT業界の人々は、道なき道を切り開く先駆者の立場にある


上田先生、私は今のお話でものすごくよく掴めました。「貢献しない仕事はしない。」ということなのですね。実は、私はITの仕事をずっとやっていまして、貢献しない仕事が多過ぎると常々感じているのです。貢献しないのだったらまだよいのですが、逆噴射する方もたまにはいらっしゃる(笑)。
それでもう一つ、ドラッカーが言っていることを思い出したのですけど、「知恵を使う労働者というのは、問題を定義しろ。」と言っていますね。「方法を考えるよりも、問題を定義しろ。」と。ITのプロジェクトをたくさん経験してきた中で痛感するのが、必ず「どうやってやるんだ?」という方法が先行するということなのです。これはドラッカーの言っていることには反しているのですが、問題が見えていないのに方法を考えるということが横行しています。これは日本だけの問題なのでしょうか。

上田惇生さん

上田
まず、「問題が分かり切った」と思うこと自体が、「問題が分かっていない」ということです。問題というのは立体的なものであって、こちらから見てある種の問題に見えても、また別の方向から見れば、また違った問題に見えるわけです。ですから、みんなが「この問題はこうだ」と言った場合には、その問題の知られざる側面というのは、見過ごされてしまいます。すなわち、問題が理解されていないということです。問題を定義しないことには、間違った問題、一面的な問題、みんなが賛成したから問題とされてしまった問題について取り組んでいる、それだけの話になってしまいます。ですから、むなしい作業になってしまうんですね。


そうですね。むなしいことがたくさん起こっているので、業界全体が暗い部分もあります。最初のパネルの答えの模索にもなりますが、どうやったら知恵を使った仕事に向かうように人を変えられるのだろうか。これが現在の私の抱えている問題なのです。

上田
知恵を使って仕事をするのは、全く当たり前の話なのですが、必ずしもそうはいっていないということですね。私もパネルを聞かせていただいて感じたのは、皆さんがこの世界に入った時に、IT業界は光り輝けるものであったのではないかということです。そこに入れば、光り輝く人生が待っているはずだったのではないでしょうか。それなのに、今いろいろな問題が出てきている。
私にとっては、ITの世界は光り輝ける存在です。でも、世の中にずっと光り輝いているものは存在しません。問題が出てくるのは当然のことといえます。そこで工夫をするということが、実は楽しいことなのであって、光り輝けることなのだと思うわけです。すべて「こうすればOK」というものはない。一つ一つの積み重ねです。「スピードと積み重ね」という言葉を林さんの文章で拝見しましたけど、まさにそれなのだと思います。
ドラッカーが言うには、今とんでもない大転換期にあります。1965年あたりから2030年ぐらいまで、この大転換期が続くという。我々はたまたま、そういう転換期に生まれ合わせたわけです。我々のひいおじいさんや、あるいは我々のひ孫などは平坦な時代を生きることができますが、我々はこういう時代にいて、大変な思いをしています。
しかし、大変であるが、面白い。なぜなら、「誰でも、何でもあり」の世界が今来ているからです。そういう転換期の主役がITだ、とドラッカーは言っています。それはどういう意味かというと、ITがない世の中などもう絶対にありえない。今後の社会にとって非常に大切なことだからです。これから500年、1000年と人類の歴史は続いていきますが、ITの時代は、まだ始まって50年かそこらでしょう。みなさんは入口にいらっしゃるわけです。ですから、みなさんこそが、我々に続く人類の先を走っているわけです。ここでITを人類にとって幸せなものにすることができるかどうか、その如何によって、我々の後に続く何十億人、何百億人という人間の幸せが決まってしまう。そういうすごいところにいるのです。


私は業界の中でいろいろスピーチする機会があって、みなさんとお話しするのですが、もちろん多くの希望を持っている方もいるのですけど、「これからITの世界は多様になり、難しくなって大変だ。」という人が多いのです。私自身はどうかというと、「プロの仕事ができるチャンスに溢れている。こんな楽しい世界はない」と感じています。たしかに課題を乗り越えるときは苦しいですが、みんなそういうふうに考えてくれると、もっといい仕事ができて、この業界は盛り上がると思います。

上田
全くそうだと思います。ドラッカー自身もそのようにITを見ています。まず印刷革命が起きて、産業革命、生産性革命と続いて、今IT革命が起こっている。大きな節目の一つであり、そこから新しい人類の文明が始まるという見方をしています。しかも、その革命は今始まったところですから、みなさんが先駆者なわけです。先駆者として道を拓いていくところが、また楽しいのだと思います。素晴らしい仕事をして、それをまねする人たちが出てくれば、まさに文明をつくっているということになるわけですね。


上田先生、私たちの感じ方というのはちょっと間違っていたのかもしれません。「ITも30年、40年やっているから古くなってきた。昔はよかったけど、だんだんおかしくなってきた」と考えていました。今日も「昔のIT」という話がよく出てきたのも、そのせいだと思います。でも、実はまだまだ入口と考えたほうがよいですね。

上田
これから始まるのですよ。例えば、働くのが楽しい職場をつくることもそうです。現在、あらゆるサービスは組織が提供しているといって過言ではない。わたしたちの生活が財、サービスにおいて豊かであるかどうかは、組織の運営のされ方の如何にかかっています。なおかつ、わたしたちみんなが組織を通じて働くようになっている。それぞれの組織を通じ、みんなが自己実現できれば、心の面においても豊かになれるのです。ですから、組織の運営のされ方が、物心共に人の幸せを左右します。その組織の運営のされ方が、マネジメントなわけですね。
ですから、皆さんがそれぞれの職場で、みんなが生き生きと素晴らしい仕事をするという組織をつくり、それを他の組織の人がまねしてくれれば、そこでよりよき慣習、仕事のやり方、文化というものが創られるわけです。そうして人類の歴史は、前へ前へと進んでいくのです。どこかの哲学者や政治家や軍人が、あるいは独裁者が何かご託宣を並べるから文明は進歩するのではありません。
だから、ドラッカーは言います。「文明をつくっている人は、そちらの課長さん、こちらの係長さん、あちらの社長さんである。政治家でも軍人でも何でもない。思想家でもない」しかもみなさんは、さらにまた、その文明を作る最先端におられるわけです。

構成:萩谷美也子

(次回に続く)

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