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2007年12月 4日

【林衛の業界探求シリーズ(3)】第三回 「システム子会社の経営者としての取り組み」

本社との良好な関係をいかに維持するか

渡辺道人さん


渡辺さんはそのあと、2004年からFFCSの社長をされていますね。

渡辺
ええ。ちょうどそのころから、デジタル化によって会社の環境が変わり、経営の仕方も変わってきました。連結経営等、今までの会社の構造そのものも変わってきましたし、私たちの担う新しいIT戦略も、個別のニーズに対応するのではなく、会社を変えるためにITがあるという時代です。ちょうどその転換点に復帰して、3年間やってきました。


お立場がだんだんとビジネス寄りになってきていますね。電算部門の最もコアの時期を担当された時期もあり、R&Dにも関わられ、サービスをつくられた時期もあり、今は経営と直結する、ほとんどCIOに近いお立場だと思います。

渡辺
本社の経営企画担当役員がCIOで、そのもとで、本社スタッフと共同してCIOの実務的役割を負っているというところです。


現在は、親会社さんからの仕事がほぼ100%なのでしょうか。

渡辺
親会社と、それからグループ会社からの仕事です。


親会社さんにはシステム部は無いのですか。

渡辺
ええ、ありません。経営企画部門にほんの数人からなるIT企画グループがあり、IT戦略を担当しています。メンバーは、輸出業務や、経理業務の出身者を中心に、FFCSの出身者もはいっていますが、以前SAPの導入を協力してやったことで、経営や実務とITの関係を非常によく把握しているように思います。こういう人たちが中心になって、経営とか本社との接点の部分を非常に上手くやってくれています。ですから、同じ目的を本社側とFFCSでお互い協力して実現するという関係です。時には厳しいことも言われたりしているようですけど、強力な味方でもあります。企画側がきわめて少人数で、実際の企画はこちらがやらざるを得ないので、縄張り争いをしている暇も必要もないのです。


その親会社、情報子会社の関係は、一般的にはなかなか上手くいっていない部分ですね。上手くいっているという話をお聞きするのは珍しいことです。

渡辺
私たちがずっとやってきたのは、システムという、もの作りですから、「作ってナンボ」で、できたら安心してしまうという性格を、どうしても色濃くもっています。ですから、その傾向が強く出て、やや安易に流れることがあります。私も日頃から「作ればいいというものじゃない、効果を出して、それを見届けて」と注意はしていますが、経営企画部の彼らからも率直にそれを指摘されますね。緊密に協力しつつ、でも緊張関係はそれなりに持ちながらやっています。


その基本方針とガバナンスは効果が高いと思います。しかし、それ以外のいわゆるITガバナンスの要素というのは、全部FFCSの中で組み立てることになるのですね。

渡辺
そうです。ただこれは、今後相当努力していかなければならない領域だと思っています。
FFCSの上層部は、みな元は本社のシステム部門からこちらへ来た人たちですから、「自分も一員である自社の問題として、経営や業務に貢献することが使命」ということはわかっているし、現在は本社と密な関係が保てていますが、だんだん代替わりしてきます。その後も良好な関係を維持するための仕組みをどうするかということが、重要な課題です。


いま現在は、もともと共に苦労してきて勘所が分かっている人たちと協力してやっているということですね。「その輪を切らないようにするにはどうしたらいいか」というのが課題であるということは、やはりローテーションが必要になってくるのでしょうか。

渡辺
私も、基本的にはローテーションだと思います。


いくら責任やプロセスを決めても、中身に対する勘所が働かなくなると、迷走しやすいですからね。

渡辺
そうです。十分とはいえませんが、内部統制スタッフの一員として出向したり、先ほどのIT企画グループを兼務する人間を出しています。同じものを見ても、川の向こう側から見るのと川のこちら側から見るのとでは違って見えますから、向こうの見方を分かろうと思ったら、向こう側へ行く必要があります。そういう機会を人為的にもつくらないと、上手くいかないでしょうね。私の経験からいっても、実際にR&Dに行ったからこそ、R&Dのすごさや難しさが分かるわけですから。


ほんとうに、こればかりは実際にそこに行ってみないと分かりませんね。

組織にも当てはまる「渋滞学」

渡辺道人さん


今、御社の社員は何人いらっしゃるのですか。

渡辺
150名です。


さらに協力会社の方もいらっしゃいますよね。

渡辺
派遣が200名ぐらい、それから業務ごとに一括でここに来てやっている人たちがいますから、全部で600名ぐらいの席があります。


渡辺さんはトップとしてそれだけの規模の組織を掌握されているわけですね。
しかも、親会社、子会社の関係で非常に上手く、しかも効率的に動けている会社というのは少ないと思います。そのあたりには富士写真フイルムグループさんの遺伝子も働いているのでしょうか。

渡辺
そうですね。富士フイルムという会社は、組織優先で動くのではなく、実をとる形で動くという面が強いという気がします。


官僚的ではないということですか。何が正しいかで動き、誰の責任かでは動かないと。

渡辺
そうです。富士フイルムは、決まり事は不思議なほど少ないし、理屈よりは結果、反省より次をどうするかという文化です。なぜそうなったかと言いますと、もともと富士フイルムは人数が少なかったのです。実際、IT企画室には数人しかいませんし、しかもその長はインターネット室、つまり富士フイルムのホームページを中心にインターネットをどうするかというところの長も兼ねていて、富士フイルムホールディングスの経営企画もみな兼ねているのです。ですから、いなくてはいけないところが何ヶ所もある(笑)。ものすごく忙しい。だから余計なことは言わないし、上手くやらないと成り立たないわけ。
最近テレビで「渋滞学」というのを知りまして、面白いと思いました。車の密度が濃く、この台数でよく流れているなという状態になっているときに坂道にさしかかってスピードが落ちると、とたんに大渋滞になるのです。そういうのを一生懸命学問でやっている方がおられる。それを見ていて、「やっぱりそうか。車が多すぎると渋滞する。会社に人が多すぎてもよくないのだな」と思いました。われわれの会社は人が少なくて、全体で1万人体制というのがずっと続いたのですよ。人が少ないことによって上手くいっていることもあると思います。


それはいいことをお聞きしました。アイ・ティ・イノベーションも、仕事のわりに人数はかなり少ないですから、渋滞し難いです。一人一人の責任範囲もはっきりしていて、誰かに振りようがないですから、自分の責任でやり切るしかない。誰に仕事が溜まっているかすぐ分かるようになっています(笑)。

渡辺
人数が少ないと、確かに仕事は大変だけれども、気持ちいいですよね。
「前に進もうと思ったらこの人がいて何か動けない」とか「こっちへ行こうと思ったら、そこにもいた」とかいうのは、渋滞の元です。


組織の大小はありますけれど、仕事量に対してやはりコンパクトなほうがよいですね。

渡辺
コンパクトに維持すべきでしょうね。


何人寄っても、そう良い知恵が浮かぶわけではないし。

渡辺
そう、「自分しかいない」と思って考えるのが一番いいんです。最後まで唯我独尊になってはいけませんが、そのつもりで考えないと良いものはできないですね。


「どうしましょうか?」なんて言ってはいけない。「私はこうしたい」と言うことが大事です。今日の第二のテーマは、人と組織をどうするかということなのですが、今までのお話から見ると、やはり組織は軽いほうがいいということでしょうか。

渡辺
ええ、軽い方がいいですね。

IT組織にとって優秀な人材の定義とは

林 衛


今お聞きすると、おおざっぱに150人の正社員、全体が600名で、正社員一人あたり3人のパートナーということになります。これはけっこうきついと思うのですが。

渡辺
きついですね。これでも人を増やしているのです。130人だったのを150人までもってきました。仕事の種類も増えていますから、ただ人数が少なければいいというわけにはいきません。今度は忙しくなりすぎて、ぐるぐるハツカネズミみたいに回しているだけになってしまいます。今は内部統制上、派遣の方に任せるにしても最終チェックはしなくてはならない。そういった部分がだんだん大きくなってきています。そうすると、「それを回すことが私の仕事」になってしまって、極端にいうと丸投げ、創意工夫どころではなくなりかねないのです。


回すのに手一杯になってしまいますね。

渡辺
ええ、そこが心配ですね。この3年間くらいでどうしてもやるべき大きなテーマがいくつもあって、外からコンサルの人に入ってもらったり、協力会社の人に頼る部分がふえました。「とにかくそれをやり遂げるのだ」という信念で、今までやってきたわけです。
しかし、そればかりではいけないですから、会社の中の技術面のコミュニケーションや人材育成の仕方をもうちょっと考えようと、今はそちらのほうに注力しています。優秀な人間が技術を推進するためのいろいろなしかけをするグループをつくって、この4月から動かし始めています。そういった部署ができると、もちろん担当者も問題意識をもって働きかけもしてくれるのですが、それだけでなく、今まではっきり見えなかったいろいろなことが、そこに相談するという形で上がってきています。


情報の流れるかたちが変わってくるんでしょうね。

渡辺
そうです。それもやはり優秀な人がいないと、人数だけ当てても駄目なんです。「こいつはできるな」という人を当てないと。


なるほど。ひとつお聞きしたいのですが、社長から見た、優秀で理想的な人材像というものがあると思うのですが、渡辺さんの場合、それはどんな人で、その人たちにどういうことをさせていこうとされているのでしょうか。非常に難しいテーマだとは思いますが。

渡辺
何かを遂行するときに、「何が一番本質的なことなんだろうか」ということを考えて、どうやったらそれができるのかということを、常に考えている人ですね。それを自分で考えただけではなく、周囲の人に働きかけたり、動かしていける。そういう人が一人いるだけで全然違いますよ。


ええ、違いますね。

渡辺
まあ、林さんみたいな方が2、3人いたら全然違いますよ(笑)。


下手をすると会社が壊れるかもしれないけど(笑)、いいこともたくさん起こると思います。
つい先日、経営情報学会の会長をされている東工大の飯島先生と「ITの仕事をする上で優秀な人というのはどういった人なのだろう」という話をしていました。私は、まずパッと本質をつかむ抽象化能力があり、さらになぜそう考えたのかということをきちんと論理立てて言えることだろうと思うのですが、飯島先生によりますと、これはいくら教育してもできない人はできないという話でした。つまり仕事は、抽象化と具象化を繰り返すわけなのですが、具象のほうはいくらでも職人的に訓練することができます。しかし抽象化能力のほうは、30過ぎたら新たに身に付くということはないらしいのです。そういうふうにお聞きして、ある意味整理もできたのですが、一方でガッカリもしました。
抽象化が苦手な人は訓練してもダメであって、別な仕事をしてもらった方がよいのだから、そういう人たちに対して無駄な努力はやめようと思ったのです。渡辺さんは、この件に関してどう思われますか。 

渡辺
抽象化する能力についてですか?


ええ、抽象化能力とか本質を把握する能力は、世の中のIT企業が最も必要とする人材の資質の一部と私は考えるのですが、それは必ずしも数学的なものだけではないですよね。もちろん理系の脳は論理的なものを重視しますが、抽象化は音楽や演劇や芸術に近い部分があります。そのセンスがあるかないかで、その人の仕事における能力がかなり違います。私はそう整理して、いろいろな人に確認しているのです。

渡辺
まさにおっしゃる通り、ソフトとは抽象化、抽象化能力は特に重要だと思います。どれだけ大きな価値のあることができるかの決め手は、抽象化能力に優れているかどうかにかかっているでしょうね。そしておっしゃるとおり、結果に向かっては抽象化と具体化を繰り返すということになりますが。直感的、本質的につかむという意味では、たしかに数学的論理より、抽象化して絵に書けるとか、哲学的な意味論とか、そういうほうが大事なような気がします。


私が拝見した限りにおいて、すごい仕事をした人は、やっぱり会話の中で抽象化のつかみが非常にいいです。これは大学教授のようなビジネス畑以外の人も含めて共通のような気がしますね。

渡辺
そういう人は瞬時に本質をつかむので、かなわないなと思いますね。

優秀な人間を活かす環境づくりも必要

渡辺道人さん


ほかにも要素がありますが、例えばそういう資質のある人たちに、どんな仕事をさせて、どうやって会社をさらに成長させていこうとお考えでしょうか。それから、技術寄りにいる人たちは、何か分かってしまうとすぐ停滞する傾向にあります。私はそれを目にするたびに「変化するのが人間だろうに」と思ってうんざりしてしまうのですが。そういうところは、どう対策をされていますか。

渡辺
いや、私もなかなか対策まではできてないです。今はみな、型にはまった中で仕事をして、けっこう忙しいから、そのまま過ごしてしまえる状況でもあります。型を作ることはそれはそれで必要なことなんですが。新しい刺激を繰り返し受けられる環境をつくってないと、せっかくポテンシャルのある人も、あっという間に錆びついてしまいますね。優秀な人を錆つかせず生かせるような場をつくっていかないといけないと思います。
そこで、ちょっと心配なのは、現在、日本のITの世界が、一見昔のような夢のある世界ではなくなっていることです。その結果、ポテンシャルを持った人が来にくくなっているでしょう。実際はいろんな可能性のある、夢を現実に出来る業界なのですが。


そう、それが構造的な問題です。それを払拭するのが、われわれの使命ですよ。

渡辺
優秀な人たちが「いくらでもこれから自分たちの思うことが実現できるんだ」とか、「そこにはすごい世界があるんだ」と分かれば、もっとやって来ると思います。忙しくて疲弊するだけだと思ったら来ないですよね。


そうすると、勉強の仕方も、幅というかいろいろなバリエーションを持ってやらないとダメかと思います。ソフトウエアの仕事をするのに「これを勉強すればこれができる」と決まりきった型があるというのは、優秀な人間にはむしろ気鬱ですよ。

渡辺
ジュンク堂レベルの本屋へ行くと、ものすごくIT関係の本がありますね。今の人はあれを相手にするのだから大変だなと思ってしまいます。私たちの頃は、そんな本はほとんどなくて、自分の頭で考えるしかなかったですから。


本は貴重でしたね。

渡辺
ですから本当に少ない情報量から、どれだけ大きな仕事をするかを考えるしかなかった。今の人は知るべきことがいっぱいあって、あれを全部読まなくてはいけないというようなプレッシャーの中にあって、しかも自分の独創性を発揮していくことが求められているのでしょう。これはこれで難しいのだろうなと思います。


頭のいい人は抽象化能力があるから「こんなもの全部読んでいられるか」と、ある時点で見切ってしまうと思います。まず、そう思えるかどうか、そして大量の情報の洪水から必要なものだけピックアップできるかどうかが、その後の成長の分かれ道でしょう。

渡辺
本当にそうですね。でも確かに最近それを軽々とやれる人はけっこういるのだなという感じはありますね。すごい人はやっぱりすごいです。情報の氾濫の中でも、非常に的確に本質や流れを掴んでいる。情報量の爆発的増加の一方、それに適応して、そういう能力がそれなりにちゃんと発達してきているのだなと思います。

(次回に続く)

構成:萩谷美也子

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