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2008年1月11日

【林衛の業界探求シリーズ(3)】第四回 「枠を打ち破り、新しいITの役割を担う人材を育てたい」

部下に具体的な指示を与えすぎない

林 衛


渡辺さんは、バイオリンを本格的に復活させたときに、さらに良い経営ができるようになったのだと、じつは私には思われるのです。不思議なことに、私の見るところでは仕事以外のことにも時間とエネルギーをかけたほうが、本業もさらに良くなっていくのです。これも私がいろいろな方と話をして発見した法則のひとつです(笑)。
特にトップの人と話をすると、日頃「こうかな?」と自分が考えながらやっていることが、よりクリアに見えてきますね。例えば、トップの方々は、ご自分が理解していても、あえて指示という形では口に出されないことが多いです。
渡辺さんは私よりももっとたくさんの人を相手にされているので、物理的にできなかったり敢えてしなかったりということもおありでしょうが、あまり細かいことまで先回りして指示しないほうが、その人が自分で考えますよね。誰かが言っていましたが「不親切の親切」というか、一見不親切に見えて、結局親切になります。一年くらい経ってやっと分かるかもしれないことですが。

渡辺
最近、私共にいる部長さん達が迷っているのが、まさにそのことなんですね。あまり細かく指示すると、かえって下の人によくないと思う。そうはいっても自分が入り込まないと責任を持てないし、入り込むといろいろ言いたくなるし、どうしようかと悩んでいる。確かに任せないと伸びないが、かといってマル投げ、任せっぱなしも困る。彼らにアドバイスするとしたら、どう言うべきでしょうか。こういう感覚はなかなか言葉で説明できなくて。


まず、部下にゴールの提示がされているかどうかだと思うのです。きちんとゴールを示していれば、指示は抽象的でいいと思います。部長クラスが下の人にというのも、トップが部長クラスに指示することと詳細度がちょっと違うだけで、基本は同じことではないでしょうか。

渡辺
なるほど、確かにそういうことなのですね。上司も部下も、結局は「結果」に責任をもたないといけないわけで、ゴールを示すということは、その結果を共有して目指すことになりますね。


結局、部下には、その部長クラスの人が誰を見て仕事しているが全部映ります。上司しか見ていない部下も多いはずだから、なおさらです。「下に優しく上に厳しく」というのが、下の人間から見る理想的な上司像でしょう。
結局、会社で仕事をするということは、人が人を創るということに他ならないのです。ですから部長以上は全部、人を創るのが仕事です。集合的な教育は技術が変わったらやらざるを得ない。けれど、上から与えようとするのは、程々でよいのではないかという気もします。あまり親切に与えすぎないことでしょう。

渡辺
そうですね。その人が自分の責任で判断したり考えたりする余地を残しておかないと、成長できないし、指示した以上の結果は絶対出てこないですから。


まじめだけれど、上ブレしない人というのは、結果が予測できてしまってつまらないです。荒くれ者でも、上ブレしたり下ブレしたりするほうが面白いですよ。
御社には組織論にはまらない方がけっこういらっしゃるのでは。

渡辺
そうかな。私から見ると、みんなちょっと真面目すぎるかもしれないですね。


これは私が感じていることですが、どんな会社でもIT部門に行くと、人が大人し目で小さくまとまりがちになるような気がします。仕事の性格からそうなるのかと思うのですが。

渡辺
それは私も感じています。一番それが心配というか、悩ましいところですね。
日頃見ていると、トラブルがないとか、納期通りやるとか、それが、あたかもその人の最終目的なんじゃないか、と思うことがあります。QCDはもちろん大事ですが、やはりどれだけインパクトのある、本質的な変化をおこせるか、ということに関心をもったりアピールして欲しい。おとなしいという意味ではあまり上を目指しているような感じでもありませんし。

成長へのモチベーションをいかに高めてゆくか

渡辺道人さん


力もないのにプロモーションにがつがつしている人はみっともないですけど、あまり野心がないというのも、気になりますね。渡辺さんの若いころはどうだったのでしょうか。「課長に早くなりたい」(笑)という気持ちがおありでしたか?

渡辺
そういえば私も、そのときがくれば自然になるだろうと思っていたので、一生懸命仕事をしていればよいのだという感じでした。


社長になられたときも、そんな感じだったのでしょうか。

渡辺
私は設立に関わったグループのソフト会社の社長に、51歳のときなりましたが、そのとき本社の会長と社長のところに挨拶に行ったのです。当時はもっと痩せていたし、実年齢よりもちょっと若く見えたようで、会長からは「ずいぶん、若い社長さんだね」と言われました。しまった、と思われたのかもしれませんね。それまで、富士フイルムグループの中ではそんな年でトップになることはなかったのです。じゃあ何故なったかというと、R&D領域ではソフト領域の人が少なかったからでしょうね。だから、そのころは現実感を持って社長になろうと思っていたわけではないのです。


実は私、「若いのに何を考えているんだ」と言われるのが一番嫌いでした。入社したときに早く30歳になりたかったです。30になればそれなりに、「新入社員ちょぼちょぼ」とは見られなくなりますから。新入社員のうちは、要するに外で交渉事をしても「上司には聞いたの?」という感じで、子供の使いのように軽く見られてしまうわけです。課長にならないと対外的にまとまった仕事はできないので、早く課長になりたかったです。
今の若い人というのは、そういう気概も足りないような気もします。「おれはどっちでもいいけど」みたいな感じです。世の中全体に出世のモチベーションが低くなってきている。日本全体が基本的には幸せだからなのでしょうね。

渡辺
今、「幸せの不幸せ」みたいな感じですよね。自分で責任をもってやれるというのは、大変だけど面白いのに。


その通りですよ。

渡辺
偉くなっても責任ばかり負って大変になるという感覚のようです。


一方で、高校野球とかサッカーは一生懸命やっていますよね。だから人が変わったのではなくて、目的を上手く与えてないからという気もします。

渡辺
それは私も感じます。 やらなくてはいけない仕事は山ほどあるわけですが、それだけではなく、「もっとこうしたい」という部分がないと、日々の仕事に埋没してしまいます。


目標管理制度はどの会社でもやっていると言っていますけど、なかなか機能しないらしいですね。御社の中では人事制度上、何か特別なことをされていますか?

渡辺
もちろん目標管理制度があって、上司が前後で面談もしているし、育成計画の面談もしていますが、どれだけ効果が上がっているのか、もう少しいいやり方があるような気がします。林さんのほうでは何かありますか?


ダブルで目標を立てるというのが一つあります。われわれも忙しいので、社員が目標を立てたら自分で評価できるかたちにしておきたいわけです。非常に上手くいっているとまでは言えないですが、その方法をとらなかった時よりは上手くいっているのは確かです。

渡辺
なるほど。自分で評価できるのはいいですね。私どもも自己評価はあるのですが、定性的です。


この前、中電CTIという中部電力の情報子会社の八木社長(6月に退任)と対談したときに、プロフェッショナル制度を設けているという話をお聞きしました。インフラの技術者やプロマネなど、会社の中でいくつかのスコープで認定制度をつくって、過酷な口頭試問にパスした人にそういうタイトルを与えるのです。タイトルだけでなく百万円くらい自由に使える予算をつけるところがユニークです。アメリカに行って最新技術動向を見てきてもいいし、何か機材を買ってやってもいい。もちろん稟議が必要ですけど、そういう権限を与える。これはボーナスを50万増やすよりもずっといいようですよ。
これからは、プロモーションのスタイルも多様化させなくてはいけないわけです。特に日本のIT会社というのは、技術分野のトップでもなかなか会社のトップになれないようなマネジメントの構造になっています。IT技術が突出してできる人でも、部長の給料が抜けないというような制度です。そのなかで中電CTIさんという堅い会社が、違う考え方を導入している。しかも堅い会社なので、一度制度を作ると長く続けるようですから、これはすごいと思いました。

渡辺
なるほど。それによって、そういう制度に魅力を感じる、会社に来てほしい人材をひきつける仕掛けにもなるわけですね。


これから御社は150人、200人と、どんどん発展されるでしょう。規模が大きくなると社内文化が薄まる危険性もあります。それを濃くしながらやっていくのはいろいろ大変でしょうけれど、面白いと思います。

渡辺
やはりITには、やろうと思ったことをやれる自由度が、基本的にはあります。それを上手く生かしながら面白いことをやるというのが、僕らの使命ですよ。技術の進歩が新たなチャンスを生み出すし、ちょっとした工夫が大きな効果に結びつく。恵まれたところにいるから、その自由度を存分に使っていく。工夫の仕方だと思います。

新たな異文化との遭遇を、既存の枠を外すチャンスに

林 衛と渡辺道人さん


話はつきませんが、最後に、渡辺社長のご自身が今後こんなふうにしてきたいということをお聞きしたいと思います。

渡辺
今、同じグループの富士ゼロックスと毎週打ち合わせをしています。ホールディング体制になったのを機に、ITを可能なところから全体最適をはかろう、ということをやっています。富士ゼロックスと富士フイルムは、会社の成り立ちや事業の性格からきていると思いますが、文化がずいぶんと違います。違う文化でやっている人たちの仕事を見るというのは、社員にとって、見方が広がるチャンスだと思います。昔はローテーションというのがあり得たわけですけども、IT子会社として独立していると、なかなかその辺が難しいですから、今回は良い巡り合わせなのです。そういうきっかけを上手く使って、「今まで自分たちが当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないのだ」と気がついて、どれだけそこから普遍してものを考えられるかという、非常に良い機会だと思っています。


企業文化はそんなに違うのですか?

渡辺
ええ、ゼロックスも、設立当初は富士フイルムから大分人が行ったのですが、ブランドや技術を共有する米国ゼロックスの文化の影響が大きいのでしょうね。制度が違い、慣習が違うのはもちろんですが、価値判断、優先順位付けが違う。どちらも、いたって真面目な会社ですけど。
同じ言葉を使っていても、その中身が違う。しかし、話しているうちにお互いの理解は進んできました。なぜそう考えるのか分かってくれば、今までの常識から脱却できる一つのチャンスになります。もっとも、他社の方から見れば、そんなに言うほど、大して違わないのかもしれませんけどね。
もう一つ、話は変わりますが、今までは、会社の中の仕組みをどうIT化するかということでやってきましたが、これだけITのいろんな技術が進んでくると、われわれの働き方、頭の働かせ方から情報の集め方から、あらゆる分野でITがやれることがもっとあると思うのです。そのためには今までのわれわれの仕事のパターンや分類を外して考える、枠を取り払うということが必要です。
いままでの土俵、守備範囲、技術にとらわれず、本社部門や関係会社、しいては取引先やお客様までふくめて全体を良くするためには何をしたらいいかという見方で、やれること、やるべきことを考えるというのが、われわれの本当の役目だと思うのです。「事業の人たちは実際には何を考えて仕事をしているのだろう」という、事の本質に迫っていくような仕事をしたいですね。われわれ日本のITは、ゼロベースで新しい領域に踏み込むようなことは苦手としてきましたが、これからそういうことがやれないと、日本は地盤沈下するんじゃないかと思います。


それは素晴らしいチャンスですね。世の中の環境の変化とは違い、自らの方針で起こしていく変化であるわけですよね。これでブレイクスルーすると、人も育ちますよ。

渡辺
そこで先ほどの抽象化能力が効いてくるのではないかと思います。それと志。そのヒントになるような仕事がぽつぽつと具体的に出てきているので、そういうところにどう力のある人をアサインしていくかが、非常に大事なポイントだと思っています。
それもあって、先ほどお話しましたように技術推進のグループをつくって、「風土を変えろ」とやっているのです。ブログやSNSもやりましょうという話で、僕も社内ブログに7月から書き始めて、今のところ毎日書いています。けっこう自分の思いが書けます。社員がどのくらい読んでいるかというのはまた別問題ですが(笑)。そういうものをベースに、これから今のような話もしながらやっていこうと思います。


ちゃんとやるべきことはおやりになっていて、将来楽しみです。「一皮剥ける」とよく言われますが、そういう会社になるといいですね。私たちも応援していますので。

渡辺
ありがとうございます。


ぜひ実現して下さい。渡辺さんもまだ趣味一本には行けなさそうですが(笑)、いろいろと面白いことが待っていると思います。今日はありがとうございました。

(終わり)

構成:萩谷美也子

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