プロマネの勘所
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2008年5月16日
【林衛の業界探求シリーズ(4)】第四回 「変革を当たり前のこととして、日々続けることの大切さ」
仕事を任せることが人を育てる
林
久保社長のお立場からすれば「当たり前のことを普通に、本気でやった」ということになるのかもしれないのですが、コンサルタントの目で見ますと、非常に勇気がある行為だと思います。アクセルを最後まで怯まずに踏むということを、この2年間でされて来られた。これは勇気がないとできないことです。私が評価をするのはおこがましいのですが、なかなかできないことをやられていると感じます。
久保
それは私が、ITの素人だからかもしれません。
林
それはあるかもしれませんね。しかしITは素人でも、人間についてのプロだからできることなのではないでしょうか。
久保
今お話していて思ったのですが、私は自分で仕事を抱え込まず、ほとんどのことを部下に任せているのです。他のトップの方たちとは、そこが違うのかもしれないと思いました。
林
専門の能力があると見込んだ人に、信頼して任せるということですか。
久保
いいえ、たとえ現時点では能力が足りなくても、任せる必要があると思っています。人を育てるためには、仕事を任せて、実際にやらせてみないことには始まりません。
林
これもまた勇気が必要ですね。
久保
でも、実際に任せてみれば、やり遂げてくれますよ。むしろ任せることをしない会社は、だんだんと衰退するのではないかと思います。
林
そのお話は、本当に、納得できます。
久保
もうひとつ他と異なる点だと思うのは、会社の将来をみんなで作り上げてほしいと思っていますから、トップダウンはしていないということです。人事については一応専門家だったので、あれこれ提案もしますが、下から上がってきた案の方がよさそうであれば、そちらをやってみるように勧めます。それがよかったのではないかと自分では思います。部課長が「頼りない社長だから、自分が考えなきゃ」と、しっかりしてくれたのかもしれません。
ですから、私は部課長にいつも「もうちょっと部下に任せた方がいい」と言っています。大企業を見ても、部課長がみな自分の職位よりも上の仕事をしようとするのではなく、むしろ部下のやるべき仕事をしてしまっていますが、これが日本の企業を弱くしている元凶ではないかと思います。元来、日本の会社は、部下に任せることによって人を育ててきたのに、それがなぜできなくなったのでしょうか。そういう思いがあるので、自分が率先して人に任せることにしています。
林
本来は部下に任せるべき仕事を、部課長が握って離さないという例を、私もよく見聞きします。
久保
それでは組織として、やはり弱くなるのではないかと思いますね。きちんとやり遂げられるかどうか少し心配でも、特に育成したいという人には、あえて任せる、やらせてみることです。しかし任せっぱなしではまずいのです。どこかできちんとサポートをする必要があります。しかしサポートというのは、口出しをするということではありません。黙って見守っていて、何かの時にはきちんと指導するというサポートを、過去にはみんなやってきたはずです。特に戦後はそうでした。それを部課長に話して、「できるだけ部下に任せるようにしよう」と言うのですが、それでもなかなか任せませんね。
よきマネジメントの伝承を断絶させたものとは
林
今、会社の中で、特に課長の地位は急落しています。それは課長に権限を全然委譲しない部長がいるからです。全部が悪循環になっているのです。
これは社会現象的に起こっていますが、なぜそれが起こったのか不思議です。
久保
製造業での経験から言いますと、私はその原因はオイルショックにあるのではないかと思います。オイルショックの時に、中堅どころの技術者は、省エネ、省資源の検討ばかりやっていました。それまでは中堅技術者に伝統的なマネジメントの訓練がなされていましたが、オイルショックのせいでその訓練がないままに管理者になってしまったのです。ですから、いざマネジメントしようと思っても、どうしていいか分からない。おそらくどこの会社も、それ以降に人材育成ができなくなったと思います。
林
なるほど。オイルショック論というのは初めて伺いましたが、私もそんな気がします。ITの世界では、オイルショックのあとに「失われた10年」というのがありました。バブルの影響で、ちょうど今、30代後半から40前後で管理職になるべき世代の人にマネジメントの力が育っていません。私ども60社以上のIT組織の能力統計を持っていますが、その結果を見ても確かにそうです。「御社には、次の部長候補はいないかもしれませんよ」と指摘したくなる会社がかなりの数あります。
きっとオイルショックとバブルの2回、空白があったのですね。見えないマイナス効果が重なって、現状に至っているのだと思います。
久保
ええ。それはありますね。オイルショックの後で日本の景気はよくなりましたが、マネジメントは引き継がれなかったのです。マネジメントの仕方が分からないまま、現在まで来ています。ところが、トヨタであるとか、現在も強い企業は、もちろん時代に応じた改変はしつつも、オイルショック以前のスタンダードなマネジメントを、きちんとやってこられた企業だと思います。
林
その通りだと思います。この前、トヨタの以前から知っている人と久しぶりに会って話をしました。彼は、いろいろな部門を経験しながら、しかもそのそれぞれで、すごい仕事を任され、あまり寝られない日もあったそうです。でも話をしていくうちに、仕事を通してその人が目覚しく成長しているのがよくわかりました。
久保
そうでしょうね。
林
やはり伸びている会社では、同じ原理が引き継がれているのでしょうね。
久保
私は現在の日本の弱さは、マネジメント能力のギャップというよりも「マネジメント経験の喪失」だと思います。マネジメントの方法は本には書いてありますが、経験がないので実践力がないのです。
林
そうですね。それに、確信犯といいますか、自分なりの信念を持って新しい仕事を開拓する人が少なくなってしまいましたね。
久保
そのためには、少々しんどくても、部下を引っ張っていくことが必要なのですが、それがなかなかできなくなってきています。それはやはり経験がないからですよ。
真の保守主義者こそが、絶えざる改革を求める
林
同じことを感じておられるのですね。私は小さな会社を経営していますが、コンサルタント会社ですから、人様の会社の組織を変え、意識を変えるのが仕事なのに、2、3年同じことをやっていると、やはり自分たちも硬直化したり、飽和してきます。私はそれを許さずに断ち切って、組織を壊して違う方面の仕事を始めるなど、新しいことに着手します。それでもすぐに停滞が始まるのです。おそらく社員はもう5年ぐらい経てば「あのとき鍛えられたのが良かった」と思うのでしょうが、その時は「何で私がやらないといけないんですか?」という反応ですね。「既存のものにかじりついているのは評価しない。新しいことをやれ」と言っていますが、言い続けないと、またそこで止まってしまうのです。
久保
そうですね。SSSへ来たときに、私はもう一つ社員にメッセージを出しました。
それは私自身が新入社員のときに、制度というものの考え方について、人事労務の上司に言われたことです。制度を作ったら、まさに作ったその時から後退が始まるのです。「作ったその時は最善だが、すぐにそれは劣化していく。言ってみれば、先輩が作った制度の尻ぬぐいをしていくのが君たちの仕事である。だから既存の制度を絶対視せずに、これからを見据えて変えていくことが必要だ」ということを、入社早々の時に言われました。その時は、私にもその意味がよく分からなかったです。
林
入社早々では、意味が分からなかったかもしれませんね。経験を積むと「あの時、いいことを言われていたな」と思うわけですが。
久保
ええ、やはり何年かして、会社の中も分かってくると、「あ、なるほど」と思いました。社内でもPlan Do Seeをきちんとやって変革しているところが強いというのが、目の当たりに見えてきますからね。
ですから「SSSも新しい時代に合うようにするためには、やはり変革をしていくし、変革というのはずっと続く。それを一緒にやっていきたい」と社員に言ったのです。ともすれば新任社長が先輩とか過去を否定したセリフと思われるかもしれませんが、その時私の真意は「現在やっていることがいいかどうかを一回チェックして、よければ伸す、悪ければ変える」ということです。それこそが変革ではないかというのが私の考えです。
林
ええ、社長としては、制度や組織ができたとたんに、その細胞が死に始めるのが分かるので、危機感があります。弊社の方がずっと小さいし、変革して実力を上げないと、社員自身が将来幸せでなくなってしまいます。それなのに「うちではこうなっていますから」という社員の発言を聞いて、がっかりすることがあります。そんなことにがんじがらめにならないで否定していいのに、いや、むしろおっしゃるように、チェックして変えていくことこそが重要なのですが、そこがわかっていません。それで、私もせっせと社内ブログを書かないといけないのです(笑)。
久保
私は思想的には一番の「保守主義者」です。保守とは良いものを保守するのであって、悪いものは革新していくものだと思っています。「新しければいいというのもおかしいが、古ければ悪い、あるいは古ければいいというのもおかしい」という立場です。「これだけ環境が変わっているわけだから、今までのものが全部通用するわけはない」という考えがベースにありますね。
その典型は、私の組織論かもしれません。例えばSSSには280人(4/1時点では300人)の社員がいます。その社員が、自分はたった280分の1の存在でしかないと思うか、280分の1の役割と責任を担っていると考えるかによって、その人の生き甲斐なり達成感は変わっていくのではないかというのが、組織と個人についての私の考え方なのです。
例えば280の部品から構成された時計があるとしますね。280のうち一つでも壊れたら、その時計はきちんと機能しないはずです。だから「自分はたった280分の1の歯車か」と否定的に考えるのではなく、280分の1の責務を確実に担っていると考えて仕事をすることが大事だと思います。
現実には一人いなかったから会社が回らないというわけではありませんが、そのような意識を持っていてほしいですね。
林
それはいいお話ですね。分かりやすいです。
久保
分かりやすいでしょう(笑)。以前、 新居浜にいたときに、昔で言う元服式を迎える中学生たちを相手に話をする機会があって、この話をしました。「君たちは日本の人口の1億2千分の1だと。『なんだ、たったそれだけか』と思うかもしれない。しかし1億2千分の1を担っているということが非常に大事であって、それをないがしろにすれば国が滅びることだってある。そういうものの考え方をしないといけないのではないか」と言ったのです。あとで送ってもらった感想文を見たら、中学生が非常に感激していましたね。「そういうお話は、初めて聞きました」と。
林
分母がいくつであっても、1が立つことは確かであり、その1こそが重要なわけですからね。
久保
昔はまわりの大人がそういう話を子どもたちにしていたはずだと思いますが、最近はそうでもないようですね。
林
それもまた、断絶してしまったことの一つかもしれませんね。
会社も個人も、まだまだ伸びる余地を持っている
林
今後、その改革の輪が続いて行けば、SSSはどんどん発展するでしょう。マネジメント層に個性のある方が多くて、一生懸命に仕事をしておられますね。
久保
実は先年組織を変えた時に、意識的に若手を抜擢して39歳、38歳の部長をつくったのです。昔で言う「2階級特進」のような感じです。その代わり若手の管理職には「君たちは成果を発揮しなかったら、すぐに入れ替えるから」と言ってあります。それなりにがんばってやってくれていると思います。もう一つよかったのは、それより上の世代が腐らずにこの改革を受け入れてくれたことです。
林
そういう社内風土があるのでしょうね。
久保
SSSは今年でちょうど20年目で、プロパーの大卒がようやく40歳になるぐらいです。家庭的な雰囲気がありますし、若手も多いし、平均年齢もまだまだ若いです。だから可能性をたくさん持った会社なのだと、従業員に常々言っています。ただ、先ほど言ったように「場面や環境はつくるが、実際にやるのは君たちだよ」というのが、最後の決めゼリフになるのですが(笑)。それをやってくれたらもっともっと伸びるのではないかと思っています。まだそういう面では不満があります。
林
確かに馬を水辺に連れて行っても飲むとは限らないですが、そもそも水辺に連れて行かないと始まらないですよね。
久保
そうですね。水辺に連れて行くところまでは、かなりできたのではないかと思います。
林
やはり社長に就任されたときに全ての社員と会われて、だいぶ人が見えたというのが、今まで伺ってきたさまざまな改革のベースにあるのではないでしょうか。
久保
全員と話してみて、まず思ったのは「うちの従業員に質の悪い人間はいない」ということでした。それに、みんながその時に私に対してあまり気後れをしなかったので、スタートとしては非常に良かったのです。
最近、中途採用を行っていまして、入社日に役員と中途採用者とで居酒屋でわいわいと懇親会をします。そうすると採用者に「こんな会社はないですよ」とびっくりされてしまいます。「前の会社では、社長と話したことはなかったです」と。そして、「これだけで会社の雰囲気が分かりました」(笑)と言われますね。
先ほど言いましたように、開かれた社長、従業員に近い社長ということをキャッチフレーズにしていましたが、残念ながら時間が経ってくると、どんどん距離が遠ざかっていきます。従業員の方が構えるようになりますね。不思議なことに。
林
私も車座会議という、来る者拒まず、去る者追わずのサロンをつくりました。少しだけアルコールも飲めるサロンにして、いろいろな層の人に集まってもらいます。そうすると社員同士話すうちに、単純な一言についてもさまざまな理解があるということが実感としてわかって、とてもよいのです。でも、だんだん同じような顔ぶれになってくるのですよ。
久保
そうですね。私も社長室を午後6時以降は談話室として開放していましたが、だんだん人が来なくなりましたね。それに、従業員と一緒に飲みに行こうと誘っても、特に若い人が緊張しがちです。「どうして遠慮するの?」と聞いてみたら、みんなから「だって、久保さんは社長だから」(笑)と言われてしまいました。飲み始めたらすぐに和気藹々にはなるのですけども。
林
そういう努力をされていても距離ができるというのは、社長業が定着した証拠かもしれませんね。少しお淋しいかもしれませんが。
久保
きっと、そうなのでしょうね。でもこちらから近づく努力は続けるつもりです。
林
本日はいろいろな話題でお話しできましたし、共通点もずいぶんあることがわかって非常に楽しかったです。お忙しいところ、ほんとうにありがとうございました。
(終わり)
構成:萩谷美也子
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