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2008年6月20日

【林衛の業界探求シリーズ(5)】第三回 「変化の大波の中で、仕事を楽しむ」

予想を超えていた、ネット環境とビジネスの進化

日比喜博さん


それ以外には、どういったお仕事をされていたのですか。なにか印象に残っているお仕事はありますか。

日比
そうですね。先ほどもお話ししましたが、私が若かったころ、タクシー会社や観光バスをネットワークで繋いでデータのやり取りをする仕事をしました。そのころは公衆回線を使って300bpsの世界です。


音響カプラですね。

日比
ええ、音響カプラ(笑)。よくても1200bpsでしたね。フロッピーのデータをやり取りするのに、30分間ずっと回線を繋ぎっぱなしです。パソコンも今に比べたら、大きくて垢抜けしていないデザインでした。その仕事を入社2、3年目くらいにやっていました。
実はそのとき、「今後はきっとこういうデータ通信を使って、家で新聞が読めるようになりますね。なったらいいですね」と、そのころの上司に話したことがありました。そうしたら「お前はバカだね。日本にそんな電話回線はないし、金もかかるし、そんなことあり得ないね」と言われて、「あ、そうですね」と返事はしたのですが、今でも悔しくてたまらない思い出なのです。
自分でも反省することなのですが、若い人がそういうアイディアを出したときに、頭ごなしに否定はするまいと思っているのに、実は私も今、そのときの上司のようなことを言ってしまっているらしいのです。自分では覚えていないのですが、言われた部下はよく覚えているのですよ。「日比さんにああ言ったときに、『バカだね』と言われました」と(笑)。自分では覚えてなくても、そういった状況が結構あるのだろうなと、非常に反省しています。若い人のアイディアを、もっと真剣に聞くべきだと思います。


自由な発想も阻害してはいけませんね。世の中の仕組みや人間のやることは、まずy=axという直線のグラフにはならないのですよ。曲がったら曲がっていくし、増えたら増え続ける、減ったら減り続ける。ですから、とんでもないことが起こり得ます。

日比
特にネットワーク関係にはそれが言えますね。インターネットが出始めたころもしかりです。私も会社も、その事業に積極的に入れなかったのは、やはり先が見えないからだとは思います。今ではネットのほうが先に進み過ぎて、会社も私もついていくだけでも大変になっています。
私はネットショップやオークションが非常に好きで、よく参加しています。ネットの中では本名ではなく、ハンドルネームと言いますか、記号としての名前でいろいろやっているのですが、最近怖いというか素晴らしいと思ったのは、その名前を持った、私とは別の人間が仮想のネットの中に存在する形になっていることです。


ネット用の仮想の人格ができているのですね。

日比
ええ、「すごく信頼のおける人」という人格評価がなぜか出来上がっている(笑)。というのは、ちゃんとお金を払っていろいろ買い物しているからなのです。私はそんな大金持ちでもないし、本当に信頼できる人間かどうかなんてわからないはずなのに、きちんとお行儀良くネット社会に参加しているので、「非常に信頼度が高い」と書かれていまして、それを見たときに一瞬驚いてしまったのです。逆に言えば、どんな有名人でもお金持ちでも、ネット社会が初めての人であれば、まだその人はビギナーだということで、信用度についての評価は低いのです。そういうふうに、今、現実社会とは別の世界ができつつあります。ちょっと感激と言いますか、びっくりしましたね。


日比さんのネットでの人格が褒められていたのですね。

日比
「あなたは信頼できる人です」と書かれていました。


リアルな人格と一致していると思いますよ。

日比
現実世界の場合は、家が大きいとか役職が高いとかお金持ちだという要素が入ってきてしまって、人格とは別にその人が評価されるところがありますが、ネットの場合、それは入ってこないのですよ。ちょっと小説っぽくなりますが、ネット上に別の人がいるみたいな気がしてしまいます。


そうすると、ネットで非常に信頼されている人がいて、でも現実社会では、アピールの仕方がへたとか、今言われたような役職や財産がないとか、なんらかの理由で、必ずしも信頼度が高くないとしますね。「いや、そんなことはないですよ。ネットでこんなに信頼されているのだから、本当はこれくらい信頼できる人なのだよ」と言われる時代が今後来るかもしれないですね。
ネット上のオークションでは、何か特定の分野に興味がおありなのですか。万年筆だけコレクションしている人とか、いろいろいらっしゃいますよね。

日比
私は幅広くやるタイプです。
また仕事の話に戻ってしまうのですが、私どもにe-ビジネスを専門にやっている部署がありまして、そこの人たちにもよく言うのです。「アマゾンで本一冊ぐらい売ってみなさい」と。買うのは簡単なのだけれど、売るということは大変なのですよ。
私も本を数百冊持っていて、そのなかには「積読(つんどく)本」がたくさんあります。そこでチェーン店の古本屋へ持っていくと1冊10円一律なのですが、アマゾンで売ると、マニアックな本や絶版の本が千円以上で売れます。もとの定価よりも高く売れることもあります。


アマゾンでは本の価値が評価されるのですね。

日比
また「積読本」だったので、読んでいませんから綺麗なのです。だから高く売れるのですが、すごく気を使いますね。「ちょっとしわが入っているけれど、こんなものを売っても苦情が来ないかどうか」とかね。
そういったやり取りをしていると、信頼が積み重なっていくという今のネットショップやオークションの仕組みは非常によく考えられていると思います。インターネットビジネスをやりたい人は、そういう部分を経験して、自分で蓄積しないことには、よい仕組みを作れないと思うのです。


今のネットの仕組みの中で活躍できるくらいでないと、その人の考えたビジネス自体、ネットへの理解が足りなかったり、間違っていたりするのですね。

日比
だからインターネットの新しい技術だけいろいろ言ってきても、ほとんど相手にできないのです。そういうことをやっていない人が提案したビジネスは、あまり信頼できないのではないかと思います。


それはなかなかいい話ですね。ネット上で信頼関係ができる仕組みを、ご自分で体験して実感されている。

日比
そうですね。


そのお話を聞いて、私も本格的にやってみようかなと思いました。

日比
アマゾンで本を売るのは非常に簡単です。ISBNのコードを入れるだけで全部やれます。


レコードも売れるのではないですか。

日比
レコードもたまに売りますが、必ずノイズが入りますので、非常に気を使います。今はもうレコードは、アメリカで大量に1枚それこそ5円、10円で仕入れて、日本で1000円くらいで売ったりするような業者が出てきてしまいました。そういうのが出てきてしまうと、もうあまり面白みがないですね。


いろいろやられて、幅広いですね。

面白い仕事の種を見つけるには

日比喜博さん

日比
最近の楽しい仕事としては、私の部署でやっている仕事なのですが、デジタル放送関係の仕事をやらせていただいています。これも今のネットの話と同じで、アナログ放送が全部デジタル放送に変わるのです。
アナログ放送は、例えば名古屋を中心に一つの電波を出しますと、全部同じものをみんなが見ることになります。しかしデジタル放送ですと、例えば、名古屋駅から電波を出しても、豊橋の人と岡崎の人と名古屋の人へは少しずつ違うデータを送ることができるのですね。画像は一緒でも、文字データは違うものを送ることができるということになります。


なるほど。現在のTV放送のイメージからずいぶん変わりますね。

日比
これも将来的には、いろいろ面白い使い方が出てくるはずです。


いろいろなことが地域差をつけて組み立てやすくなります。

日比
将来性のある仕事で、何か早く新しい面白いものが出てこないかなと、非常に楽しみです。昔は、「ネットで一発当てよう」と思っていたこともあります。「ひとつ面白いものができたら非常に楽しいだろう」と。今は、それは難しいと思っています。やはりITは縁の下の力持ちなので、一歩一歩インフラを固めていったときに、何かドーンと新しいものができるのかなと考えています。


そのようにインフラが大きく変わるときには、必ずしも、特定の人だけがビジネスを生み出すわけではないので、芽のうちに見つけてそれを広げたら、また面白いですよね。

日比
たぶん林社長は、そういうアイディアをどんどん試していく方ですよね。


いやいや。でも、いつスイッチが入るか分かりませんよ。日比さんもそうだと思いますが、今までの経験から言うと、まだ何もないところに「これは面白いぞ」と感じるものがないと、伸び始めた芽を見つけることができません。

日比
その感覚ですよね。やはり東京はそういうものが一番漂っている感じがします。最近はネットがあるので、全国どこにいても、かなり近づくことはできますが。


そうですね。でも、日比さんが時々刺激を求めて東京に来られると嬉しいですね。東京だけではなく、もっともっとアジアにも。

日比
刺激を求めて(笑)。


北海道でも種子島でも中国でもインドでも、現地に行くと何か発見できます。同じ所に何度行っても何か発見はあります。日本も広いですし。しかも、名鉄グループとしていろいろなビジネスを手がけられているので、ちょっとしたきっかけで、大きなビジネスが育つ可能性がありますし、それを楽しむことができる立場にいらっしゃるのではないかと思います。まず楽しめないと、ビジネスの芽を探すような見方はできないですしね。

日比
そうですね。やはり楽しんで仕事がやれるようであれば、一番幸せだなと思います。今は、若い人たちが本当にやりたい仕事をつくるのが私たちの仕事ですね。仕事ですから全てが楽しいわけではないのですが、苦労も楽しさのうちということで。


私が「またいい仕事を作っちゃった」と言うと、部下から「また社長が変なこと考えて困ります」(笑)と言われるのですよ。日比さんは、そんなことはないですか。

日比
あります。自分では、「これは面白い、いい仕事だぞ」と仕事を用意しても、「こんな大変な仕事誰がやるんですか」(笑)と言われることもありますが、みんな、やりだすと一生懸命やってくれます。大変な仕事のほうが、楽しくてやり甲斐がある仕事ですね。


そうですよね。

プロジェクトの難易度が上がった時代の課題

日比喜博さん、林衛


現在、日比さんは、部下の方を育てたり、一緒に仕事をする仲間に影響を与えるということについては、どういう課題をお持ちですか。ずいぶん時代が変わってきていますから、悩みは尽きないですが、見方を変えれば、楽しいチャレンジでもあると思います。

日比
私どもは名古屋鉄道の情報子会社という位置付けなので、今55%はグループ会社の仕事で、45%がグループ外の仕事です。若い人にも言っているのですが、グループとか他社さんとかの違いではなくて、実は、どこの会社もIT一つ構築するのも全部考え方が違うのですね。社風が違うと言いますか、設計の仕方も違います。もうちょっと言いますと、ITへのお金のかけかたについても考えが違う。若い人には、まず「みんな違うんだ」ということを、きちんと理解したうえで仕事にあたらせないといけないと思っています。口で言っても理解してもらうのはなかなか難しいですし、私の主義としてはそういうものをいろいろ体験しながら覚えてほしいのです。
私はそれを長い時間をかけて体験して覚えてきたのですが、今の時代はスピードが速すぎて、私のときみたいに悠長に、失敗の一つや二つ許してもらえて、部下の不始末を上司も謝りに行ってくれる時代ではなくなってきてしまいました。いかにそれを教えて、かつ短期間で体験してもらうかが課題です。昔に比べると何十倍も仕事が難しくなっていますよね。量も増えていますし。


そうですね。難しくなって、しかもスピードを求められますね。

日比
そこで致命的な間違いを起こすと、本人も会社も終わってしまいますので、軽い程度の間違い、冗談で済まされるような間違いのときにきちんと指導をしつつ、本人もそれを理解して成長してくれるような仕事の与え方、またはそういう教育の仕方というのが、現在の私のテーマです。特にプロジェクトマネジャにはそういう能力が必要だという考えを持っています。
そういう意味で、林さんに研修を依頼したときも、「座学ではなくて実務を通して人を養成してもらいたい」と、それを非常に強くお願いした思い出があります。


私はITの仕事は医療と同じだと思っています。要するに結果が全てで、やり方を議論することにあまり重点を置いても意味がないのです。ところがITに携わっている人たちは、「どうやったらいいんだ」とやり方を求めて、結果が出るかどうかに集中できていません。学校で習ったことの延長線上で考えて、仕事にも7割8割の準備ができると思っているからです。しかし、日比さんがまさにおっしゃられているように、実際の仕事はそういうものではありません。もっと体験的で社会科学的なものですよね。理論も大事ですが、ときには理不尽なことも言わないといけない。若い人たちが、そういう非常に人間的で、ある意味面倒なことが一切なしでもプロジェクトがうまくいく方法を求めているとしたら、「そんなものはありませんよ」というのを、最初に教える必要があります。

日比
私が見ていても、丸投げして責任を持とうとしていないプロジェクトは、まずうまくいきません。特に私どもは名古屋に根を生やして仕事をしていますから、逃げるわけにはいかないのです。どこのお客さんに行っても「最初から最後までどんなことがあってもお付合いしますし、逃げません」と言います。入札をして受注したのに、自分たちが責任を持たないという仕事はしたくないのです。ですから、「メイテツコムのSEもプロジェクトマネジャもプログラマも、皆最初から最後まで、現場も行くし、最後のテストも付き合うし、障害があったら真っ先に自分が飛んで行くぐらいの気概を持ちなさい」と言っています。
以前は私が真っ先に飛んでいったのですが、最近は先に飛んで行くと怒られるものですから(笑)、2番目ぐらいに行っています。SEより先に着いても役に立たないですからね。


育成ということでは今までいろいろ努力されてきているわけですが、今おっしゃったような意識の部分をどうやって伝えていくかが非常に大事です。その辺が日比さんと私のテーマかと思います。
仕事が難しくなって短期で達成しようとすると、「絶対にこの責任範囲をやるのだ」という最初の意識が非常に大事です。ところが時代とともに「そうしなくても成り立つ方法があるんじゃないか」と、考える人が増えているように感じます。「最初に設定した目標や責任を達成することが大事なんだ」ということを、もう一度教え直さないといけないですね。

日比
ITも大量生産の時代があって、いわばベルトコンベアのある部分だけをずっとやっていれば良かったのが、セル生産方式に変わって「自分で全部やれないと駄目だ」ということになりました。これからは、さらにセル生産方式の上をいって、チームでやる体制が必要です。これだけスピードが速くしかも大きなプロジェクトが増えてくると、チームでやらなければ無理です。
ですから、それぞれの専門性を活かしてチームを組む。そしてそのチームのなかで、みんながうまく協力し合えるコミュニケーションをどう作るかが、今後の課題ですね。

(次回に続く)

構成:萩谷美也子

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