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2008年7月 4日

【林衛の業界探求シリーズ(5)】第四回 「変化を引き受ける仕組み、変化を促す仕組み」

要件定義は途中で変わるものである

日比喜博さん


最近、日比さんは何か新しいことに取り組まれていますか。例えば、要件定義を工夫したり、マネジメントの方法を変えてみるなどのテーマではいかがですか。

日比
特に今、社員教育の中で課題となっているのが、要件定義についての考え方ですね。やはり要件定義がうまくいっていない部分があります。
うまくいっていないと一言で言っても、原因はいろいろあります。まず、お客様のほうの要件が固まっていなかった場合。次に、こちらは要件通りに作ったのだけれど、実はお客さまが要件を100%言えていなかったという場合。しかし最近多いケースは、お客様も要件をきちんと言ったし、こちらも要件通り作ったのですが、半年や1年かかってシステムを作る間に、本来の要件がどんどん変わってしまったというパターンです。
これだけ時代のスピードが速いと、最初に作った要件定義のままで良いということなど、私はもうあり得ないと思っています。


ええ、絶対にあり得ないですね。

日比
そのことを、プロジェクトに携わるみんなもきちんと理解する必要があると思います。要件が変わったということで、SEからもPMからも不満が出るのですが、不満を言っても仕方がない。「お客様の要件は変わっていくものなのだから、それに追従できるようなやり方をして行きましょう」ということです。これは言うのは簡単ですが、やるのは非常に大変です。それが今年の課題ですね。
要件定義をきちんとドキュメント化するだけではなくて、変化して新たに出てくる要件に追従していけるよう、いろいろな方面の方の知識を貸していただいて、考えていきたいと思っています。研究書を書くのではなくて、実業務に役に立つようなものを工夫していきたいのです。


そのテーマは非常に素晴らしいと思います。「完全に要件定義できるということはあり得ない」という前提から考えてみると、何らかの答えは出てくると思います。世の中は刻々と動いているわけですから、いわば動画の世界なのに、要件定義は、それを無理やり「何枚かの静止画で全部を理解しろ」というのと同じ発想になりがちです。その部分で発想が転換できると、プロジェクトも成功するのではないでしょうか。

伊勢神宮型プロジェクトに学ぶ

林 衛


最近、「新しい運用」をテーマにトヨタグループで講演させてもらったときに、私は伊勢神宮の話をしました。伊勢神宮は1300年もの間、20年に1回、全部リニューアルをしています。まだ建物が使えるのに全部作り替える。それが1300年続いていて、そのために必要な木材も自分たちで植えて、全部自給しています。それに対して、運用というと、いま運用されている姿をそのままにしておいて、徐々に良くしようとしていますよね。私は、それはもうやめたほうがいいと思うのです。
特に資金力に余裕のある会社は、伊勢神宮方式を採って若手チームを作り、再構築を実施し2年で新しいチームに完全に引き継ぐといいと思います。ベテランから新しいチームに完璧に引き継いて、新しいチームにはもうベテランを入れないのです。若者に引き継ぐのが逃れられない使命だとしたら、ベテランも必死で仕事の内容を「見える化」して、多少の無理をしても引き継ぎをしていくはずです。その時にこそ、ベテランはレベルアップするのです。ベテラン全てを新しいプロジェクトに組ませることは難しいですが、企画要員にしたり、指導に当らせたりすることはできます。
しかし、なかなか皆さんそのような発想になりませんね。今ある運用をどうしたらいいかということにこだわると、よい解決策が見つからないと思います。

日比
うちの社内でも同じことが言えます。例えば10年間同じ仕事をやっている人がいます。その人は若いころに初めて経験した仕事を2、3年で全部覚えて、非常によくやったのです。よくやったがゆえに、その仕事を10年経った今でもやっています。その間に部下がついたわけですが、部下は仕事の全体がいつまでたっても見えてきません。上司が仕事をやってしまうので、部下はできないのですね。
おそらく上司がいなくなれば、部下はその仕事を自分で覚えて育ち、上司はもっと難しいことをやれるようになるはずです。組織論になりますが、今、林社長のおっしゃったようなことは広く一般的に当てはまるのではないでしょうか。うちの会社にも非常によく当てはまる実例がありますので、今のお話に感激しました。


ドラッカー的に言うと「2年でやりきるぞ」と決定することが重要なのです。あとは厳しくそれを実行すればいいわけです。ホワイトカラーはすぐ「どうやったらいいんだ?」という話にもって行きがちですが、それは違います。まず決定し、実行しようとする中で、いろいろアイディアが出てきます。要件の話もいろいろ含めて、気が付いてないけれど、もっといい方法があるのかもしれませんね。

日比
そうですね。今年も新入社員が15名ぐらい入ってきますが、入社時にはほとんど同じような能力レベルだったのに、2年後にはその差が歴然としてしまいます。2年経つと、仕事によっては能力差が倍ぐらい違ってきてしまうというのが実感です。2年というのが確かに一つのターニングポイントなのだということは、実務上の実感からわかりますね。
逆に言えば、その2年で人材をもっともっと育てる余裕があるということです。


これから先は、私たちももっと過激なことをやりましょう。そして、部下たちにも同じ過激さを味合わせてあげないといけません。その仕事がちょっとできるからと言って、同じ仕事にずっとはめ込んで10年も経つと、その人の成果の積分値は逆に縮まってしまいます。しかも、その下に入る人まで悪影響を受けますよね。

日比
上司としては、信頼できる部下ほど自分のところに置いておきたいものですが、その人を伸ばすことを考えると、「泣いて馬謖を斬る」、または「獅子は子を千尋の谷に突き落とす」という決断が必要でしょうね。


部下をずっと置いておくことは、実は上司のためにもならないのです。

日比
上司が変わらないのなら、「上司はぼんくらが一番いい」ということですね(笑)。ぼんくら上司でいると、部下が一生懸命やってくれて、結果として部下が育つ。私自身がそれを実践しています(笑)。


楽しく仕事をするためには、やはり大胆な発想の切り替えが必要です。伊勢神宮で20歳の若者を40歳の頭領が育てるメカニズムはすごいですよ。この「作ったものを捨てる」という概念が大事です。「外から見て覚えろ」といっても無理なのです。「今あるものが無くなるぞ。一緒にゼロから作るんだ」という発想だから、これだけの年月、後進を育ててきちんと継承されてきたし、実はそのほうが、コストも少なくてすむのかもしれないですよ。

どうしたら楽しく仕事ができるか

日比喜博さん

日比
楽しく仕事をするということに関して、私がいつも言っているのは、「一般化した技術を覚えて、それを使うだけではなくて、新しいアイデアをだしたり盛り込んで物事を創造することに挑戦しなさい」ということです。ソフトウェアは、かたちは見えませんが、業務の流れを作っていくということです。その視点なしに、ただプログラムを作っているだけでは楽しくないでしょう。私も学生時代はただプログラムを作ればいいのだろうと考えていましたが、実際には全然違いました。自分の作ったシステムがどのように使われ、どのように役立っているのかが想像できると、楽しさが見えてくるのではないかと思います。


これからもいろいろ課題があって、仕事は尽きないでしょうね。

日比
IT業界全体でワークライフバランスを考えると、昔プログラマーの30歳定年説がありましたが、逆に65歳までみんなが働けるようにする形を考えるべきかもしれません。ネットもありますし、ネットの世界では、基本的に年齢は関係ないですからね。最初から年齢というフィルターをかけて見られなくてすみます。頭さえ回転していれば65歳や70歳を越えても楽しんで仕事をやっていけるのではないでしょうか。実は、それもこれからのテーマのひとつなのです。


私は、「シルバーITI」を作ろうと思っています。実際に、シルバーの人も何人かいますよ。

日比
ヤングとミドルとシルバーと、いろいろつくるわけですね(笑)。


その代わり、「シルバーは、週に4日しか出社してはいけない」ということにします。「給料はぐっと下がります。だけど一応年金もあるからいいでしょ」と。遊ぶ相手を見つけるためには会社に来ないと都合が悪いし、それによって、残りの3日間豊かに過ごせるでしょう。そういう工夫も必要かなと思います。

日比
そうですね。

趣味に熱中することで、仕事への活力が湧く

日比喜博さん

日比
SEのころは、私も仕事で悩んだときがありました。家に帰って一番ほっとするのは、子どもの顔を見るときでしたが、一時期凝ったのは、熱帯魚とアクアリウム、水草水槽です。夜遅く帰っても家の中で森や水中にいるような気がして、水槽の中の水草をピンセットで手入れしたり、けっこう癒されました。私は凝りやすくて飽きやすいので、1年か2年ごとにいろいろなものに凝って気分転換していましたね。癒されるものを持つと、仕事も楽しめますよ。子どもがいれば、子どもの寝顔を見るのが一番いいとは思いますが。


でも、子どもはすぐに大きくなってしまいますからね。

日比
そうそう(笑)。


癒しを求めるのも、最初は人間相手にし、次はペット、次に植物になって、最後は石になって終わるといわれています(笑)。
ところで最近、ジャズは聴かれていますか。

日比
CDやライブを聴いたり、時には昔やっていた楽器を出して練習というか遊んでいます。


楽器は何を?

日比
アルト・サクソフォンです。それからシンセサイザーのウインドシンセとか。今はコンピュータですばらしい音源がたくさんあるので、作曲したり音を鳴らしたりして遊んでおります。音楽のソフトも最近は非常に進んでいますね。コードを入れるだけで勝手に作曲したり伴奏だけしてくれたり。超マニアになると、もっとすごいことをやっているようです。
音楽の話でいえば、私は林社長のドラムを一度聴いてみたいと思っています。一度ライブハウスもご一緒しましたが、女性ボーカルの素晴らしい歌を聴きながらのワインは最高でしたね。そうすると、また次の日の仕事の活力が出ます。


日比さんも切り替えが上手そうですね。そういう時は、仕事を忘れて完全に楽しんでおられるでしょう。
ものすごく忙しく見える人が、本当に集中して24時間仕事しているかというと、そうではないということが最近分かってきました。自分の時間を上手く作っている人のほうが仕事をしています。時間がないときに、自分から「忙しい」というのはあまりよくないです。ネガティブですよね。

日比
ゴルフが典型ですね。「この日空いていますか?」と言われると「いや、空いてないけど、なんとか行こう」と返事して、行ってしまうのではないですか(笑)。


私も土曜日、日曜日には仕事は入れずに、ものを書いたりまとめたりするのに充てています。でも、土日にゴルフを入れても、24時間やるわけではなくて、お日さまが出ていないとやれませんから、スケジュールの組み立て次第で、結構いくらでも入りますよ。
お聞きすると、どうも日比さんは仕事と遊びの区別もあまり付けていらっしゃらないようですね(笑)。

日比
ええ。ITの仕事が今までで一番長続きした趣味という感じで、ずっと付いていないです。


それが会社のためだったり自分のためだったりしますが、どちらにしろ、どうせやるなら楽しもうということですね。

日比
そう、どちらも同じような感じです。


その部分は、私たち二人は非常に似ていると思います。

日比
仕事にも遊び的感覚を取り入れるということですね。遊びと同じぐらい一生懸命仕事をしたら、すごくはかどりますよ(笑)。


仕事のアート的理解という感じですね。

日比
私が知っている方にも、たいへん忙しいのに、東京から名古屋グランパスの試合を見るために名古屋へ来るとか、忙しくても何日も外国行って来たりしている方が多いですよ。そういうメリハリが付いている人は、普段の仕事も良くできると思います。


やはり土日をしっかり遊ぶと、月曜からまた頑張って仕事をしたいという感じになってきますよ。いわば週末の「仕事断食」ですね。スポンジでも濡れたスポンジはそれ以上吸い込みませんから。一度水分を抜いておくと、またぐんぐん吸い込みます。

日比
最近多いメンタル系の病いの予防に効果がありそうですね。私も、朝「会社に行きたくないな」と思うときもありますよ。「こんな天気のいい日に、今からまた大変な仕事に行くのか」と。なぜか会社に来てしまうけれども、そこで一日家にいたら次の日も家にいたいと思うのではないでしょうか。そのまま一ヶ月くらい引きこもってしまうかもしれない。それは紙一重だと思います。それでも自分はなぜ会社に出てくるのだろうと考えるのですが、きっと、何か会社に「まだ自分はやり残している。これをやらなければ」と感じるものがあるのでしょうね。


来年度もまた、日比さんのまわりには楽しい仕事がたくさんありそうですね。否が応でも吹き出して来ると思います(笑)。

日比
ええ、楽しく仕事がやれるようにしたいと思っています。


本日はありがとうございました。お互い、さらに楽しく仕事をしましょう。

(終わり)

構成:萩谷美也子

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