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2008年9月12日

【林衛の業界探求シリーズ(6)】第五回 グローバル化は不可避だが、オフショアの成功は一日にして成らず

中国・アモイと緊密な関係を構築

渡辺 卓哉様


御社は中国・アモイへ進出をされています。私は、それは中国でのオフショアにおける貴重な成功例だと考えています。

渡辺
そうなりつつあると思います。うまく行っているのにはいろいろな要素があると思いますが、まずトップマネジメントの力量が高いことが上げられます。中国拠点のトップは中国人ですが、日本の本社に入社した方です。彼の存在が大きいですね。


現地のカルチャーも分かるし、モチベーションも高いでしょうね。

渡辺
それに、人材的にも極めて能力が高い人です。今40歳くらいですが、いろいろな意味で、同じ年代の日本人よりは頭一つ抜けていますよ。
もうひとつは、QMSをベースにプロセスを整理していったことです。日本側がちゃんとすれば、アモイはその鏡ですから、かなりの問題が解決するということが分かって、日本側と中国側のプロセスをきちんとすることに取り組んできました。


そのあたりは、一部私どももお手伝いさせていただきました。
最初の一つ目、二つ目をきれいに回すところまでは、どうしてもデコボコしますが、希望を持って根気強くやって行けば、なんとかなるものですね。

渡辺
あとは、「日本語を勉強してもらう」という前提で採用しています。ある種のフィルターをかけることになって、従業員も日本語を勉強して日本とコラボレーションをすることを覚悟して来ています。プログラミングだけずっとやりたいというのなら、英語ができればもっと給料が高いところもあるのです。ただ、「この会社に入れば、日本に行って学んだり、ほかの拠点の導入サポートなどいろいろ経験ができて、仕事に広がりがあります。その代わり日本語をちゃんと勉強してもらいますよ」と最初にはっきりと示しています。基本的に日本語は全員やるという前提にしたことが、中国の場合は大きな成功要因になりました。


経営方針の基本部分をはっきりさせているので、応募者もそれを前提に来るわけですね。

渡辺
ですから、会社の風土が固まるのです。トップマネジメントと風土とコラボレーションのプロセス作りが成功の要因でしょうね。日本人は、なあなあで「話せば分かる」みたいなところがありますが、グローバルに考えると、文化的な背景の違う人たちとの意思疎通をしながらビジネスを意識的に構築する作業は、間違いなくどこかでやらなければならないことです。そういう意味で、アモイ進出は日本側にとっても良かったですね。


今アモイの拠点には何名ぐらいの社員がいらっしゃるのですか。

渡辺
150人ぐらいです。さらにパートナーが50人なので、リソースは200人ぐらいです。


200人のパワーですか。磐田の本社が250人ぐらいの規模ですから、かなりのものですね。

渡辺
そうですね。日本はパートナーも入れると500人規模になりますが、中国・インドへの依存度はさらに高まると思います。成長するヤマハ発動機グループをグローバルに支えているので、リソースはまだ不足気味です。

日本、中国、インドのトライアングル体制に向けて

林 衛


インドはこれからですか。

渡辺
ええ、インドにはちょうど一年半前くらいに資本を75%入れました。もともとヤマハ発動機のインド拠点が、自分たちでIT部門を独立会社にしたのが5年半前で、数年後にそれを引き受けたというのが経緯です。


もともとはオートバイ製造拠点のIT部門だったのですか。

渡辺
ええ。給与体系のこともあって、よい人材を採るために別の会社にしようという点と、インド=ITという発想で、やはり外販をやってみるという狙いも、当時はあったようです。
駐在員が帰ったのを機に、ヤマハ発動機の全体の連結的視点から、YMSLグループとして動いたほうがいいだろうということになりました。中国と状況が違うので、インドの強みを活かして、中国とダブらない仕事をしてもらっています。今やっているのは、たとえば南米・コロンビア拠点の仕事です。コロンビアはスペイン語圏ですが、基本的に英語的世界なので、インドとなじみが良いようです。マイクロソフトのERPパッケージ(NAVISION)導入を、インド主体でプロジェクトマネジメントして何とかカットオーバーまでこぎつけました。


地域性やその特徴を活かした、さまざまな拠点のサポート体制を組んでいるということですね。

渡辺
そうですね。他にも、ヨーロッパ本部のプロジェクトを一つ、新しいJavaのフレームワークで開発中ですが、ヨーロッパの市場を開拓するのと、新しい技術をそれで身に付けるという一石二鳥を狙っています。


ざっくり言うと、インドと中国は、英語圏と、それから日本との親和性という棲み分けでしょうか。

渡辺
大枠ではそんな感じですね。


今後はどういうふうに展開するおつもりですか。

渡辺
中期計画で模索中という感じです。仮説はいくつかありますが、固定的には決まらないと思っています。
ただ、布石として、去年の12月に中国の幹部2人を連れてインドにでかけ、トライアングルでいろいろ意見交換をしたのです。


そのへんはすごいですね。普通は、インド企業に中国の人はあまり行かないでしょう。

渡辺
ポイントは、「われわれは中国拠点とのコラボレーションを、相互の努力で10年ぐらいかけて成熟させてきました。アモイの拠点にも、インドの拠点を自分のグループの一員として育てるというモチベーションを持ってほしい」ということです。ときどきそういうプロジェクトもあるのです。例えばインドの部品のプロジェクトには、日本からも技術者が行っているし、中国からも行って、インド人のSEと一緒にやっています。今後、このようなコラボレーションをどうやってやるのがいいのか、もちろん全体の計画はありますが、まずベースの考え方や基準、方法論を揃えておこうと考えました。Javaのフレームワークやオブジェクト指向を林さんのところで教わって、それをベースに中国とまずインドに基本的な部分を統一してもらおうとしています。それは今進行中で、もう一息というところです。そこでこちらに2ヶ月間、3人くらいインド人が来ていました。


インドの方が来られていたのですね。中国の方はお見かけしましたけれど。

渡辺
中国からは常時20人ぐらい来ています。それぐらいみっちりやらないと駄目だということがわかりました。


ああ、なるほど。それでよくお見かけするのですね。

インド人のITスキルにあった、意外な弱みとは

渡辺 卓哉様

渡辺
インドともやってみていろいろわかったことがあります。インドの人はITに強いといわれていますが、学校を出て来てちょっとやった程度のキャリアでは、テストケースがちゃんと書けないとか、コーディングはできるけれども、設計力はあまりないという人が時に見受けられます。


もちろん、いろいろな技術レベルの人がいると思いますが、基本的にインドの場合、OSからデータベース、インフラからミドルウェアまでの技能というのは非常に高いです。ただ、自分たちがアプリケーションを組みませんから、そこは弱いのですね。

渡辺
確かに、そのように感じます。


業務アプリケーションの設計ができる層は非常に薄いです。なにしろ、使う環境がないですから。

渡辺
インドにもテストチームがいますが、アプリケーションのテストのあたりも、まだちょっと弱いですね。


それはアプリケーションだからですね。なぜCMMを導入するかと言うと、プロセス通りやるというルールがないと、仕事が回らないという事情があるからですし。まずテストからさせるといいですよ。開発プロセスの後ろ工程からやらせるのです。最初はちょっと苦労しますが、テストから勉強させてやったほうが、結局は早いと思います。

渡辺
私たちも新人には「テストケースをまず書いてからコーディングをやれ」と言っていましたからね。


ええ。絶対そうしたほうがいいです。

渡辺
先ほどのヨーロッパのプロジェクトの例では、なかなか品質が上がらず「こんなことが、全然できてないじゃないか…」ということが一時期あって、しかも反省が次につながっていなかったのです。


あります。そこを我慢してもう一回やり直すのです。

渡辺
だから「ラストチャンスとして、2ヶ月、3人日本にきて、そこで徹底的にやって、できるかどうか見て、お互い確認しよう」ということでチェックリストを作ってやりました。そうしたら、さすがに背水の陣だけあって、まずまずの出来でした。日本の品質レベルも体感できましたし、その後は、品質も安定してほぼ見通しがついてきました。


中国も技術者のスキルにはばらつきがあると思うのですが、アモイでは技術者をゼロから育てられているし、かなり緊密にコラボレーションをしていますよね。社長の方もしっかりされているようですし、そういう要素が大きいのではないでしょうか。

渡辺
それはありますね。


それがベトナムであっても同じことになると思いますよ。貴社のインド拠点の場合は、本当にこれからということでしょう。

渡辺
インドでも、上流領域では、ITも分かり会計業務も高度の専門性を持っている40歳ぐらいのものすごく優秀な人が社内にいるのです。先日、インドネシアの会計分野の分析をやったのですが、レポートを書かせると、結構できるのです。やはり、インド人もポテンシャルは高いので、地域特性を踏まえた人材育成とリクルートがポイントだと感じています。

大変さはすなわち、成長のための刺激でもある

渡辺 卓哉様

渡辺
インドの強みとしては、ITインフラは当然として、パッケージができますからね。パッケージをコロンビアに入れたりフィリピンに入れたりしているので、そういう強みが上手く生かせるとよいと思っています。


そういったパッケージの開発や、改善の経験をされている人はインドにかなりいますよね。そういう人たちを、またスクラッチで開発できるように育てるという方向性もありますから、よい人を採用すれば、上手く構成できると思います。

渡辺
ニューデリーは大都市でIT人口も多いですから、優秀な人材がリクルートできる環境にあります。逆に、離職率も高く、常にリテンションが経営課題になっています。そういう意味では、アメリカの環境と同じですね。インド拠点の責任者も、中国とはタイプは違いますが、非常に優秀でマネジメント力は素晴らしいです。ディベートしていると刺激になりますし、新たな発想も生まれてきます。これはこれで、やはり日本、中国、インドという組み合わせでやることの面白さもまたあります。面白さというか、大変さなのですが(笑)。


それをあえて面白いと表現するのが、経営的にはいいと思います(笑)。

渡辺
そうですね。それは一種、私の癖というか、昔から、「大変だ」と言ってもどうしようもないから、「面白いね」というようにしています。確かに大変なのですが、ここまでくると、むしろ本当に面白いという感じですね。


やはりグローバル企業のITの場合、日本だけで仕事が完結するということは、絶対ありえません。それを着実にじわじわとやっていらっしゃる。今後ゼロから手を打たれる会社と、すでに海外での成功事例があって、それをどうやって発展させるかというところで模索されている御社とは、ずいぶん差がついてくると思います。

渡辺
やはりオフショアを軌道に乗せるには、時間かかりますから。


そういう意味でも、上手くいっている事例の一つです。

渡辺
ええ、やるべき課題はかなりはっきりしてきたし、それをやることで日本側のレベルも上がるはずです。われわれとしてはやはり、コラボレーションのレベルを高めて一緒に成長したいですね。人材を育てることも、必ずこちら側に跳ね返ります。逆にこれが日本だけだったら、刺激がなくて成長しないでしょうし、何かハードルがあったほうが面白いですからね。

(次回に続く)

構成:萩谷美也子

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