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2008年9月26日

【林衛の業界探求シリーズ(6)】第六回 次世代への基盤づくりが着々と進行中

経験を積んでこそ理解が深まるドラッカー理論

渡辺 卓哉様


渡辺社長がドラッカーの理論や、一般論で言うマネジメント手法に興味を持たれたのは、40代の中盤ぐらいからですか。

渡辺
いや、30代で多少は読んでいたと思いますね。20代でもう読んでいたのかもしれませんが、その時点では明白な影響は受けていないです。


私がITの世界に入ったころはMIS(Management Information System)の時代で、要するに経営に役立つシステムが重要だといわれていました。それで私も「経営の勉強をしないとITなんてできっこない」と思って、自己流でいろいろ経営戦略の勉強をしていましたし、ドラッカーも読んでいました。でも、あとでつくづく思ったことですが、当時の私は、読んではいても中身を全然理解していなかったのです。

渡辺
20代では、まず分からないですね。


全く分かってない(笑)。ほとんど空振りに近かったです。例えば、「ホワイトカラーの問題は、問題をきちんと定義できないことである」ということが書いてあります。それは今になると、全く正しいことを言ってくれていると分かるのに、当時は全く分からなかった。でも、ドラッカーの同じ本をずっと読んでいることで、それについて自分の見方が変わったと気がつくことができ、自分の成長の物差しになっていますね。

渡辺
私も30代後半くらいになると、ビジネスの世界での経験も積んできましたから、ある程度分かりかけていたかもしれないと思います。断続的には読んでいましたからね。


理解できても、行動に移せるところまでの深い理解にはなかなか行きません。「そうだそうだ、でも現実は違う」と思ってしまう。
でも、渡辺さんの場合、最近は行動に結びつかれているのではないですか? この5、6年ぐらいは特に。

渡辺
松下幸之助流に言うと、「雨が降れば傘差す」というレベルでは行動に移せているかもしれません。強みであるとか、人事や上司のマネジメントについて書かれていることで、無意識であれ意識的であれ、ある程度自分の心に残ったことは実際に使っています。そして、やはり一番本質的でシンプルな言葉ほど効きますよね。


ええ。シンプルな言葉の方が、若くて経験のないうちは理解できなかったりするのですが、その分、本当に理解できると効き方が違います。

渡辺
「弱みを直そうと思ってもしかたがないから、強みを伸ばせ」とドラッカーは言っていますが、本当にそうですからね。


ところが、ほとんどの人は弱みを直そうとしています。だから上手くいきません。

渡辺
「上司をマネジメントするのは、部下の義務だ」というのも、よく分かりますよね。組織に属している以上、上司というのは必ずいるわけだから。サプライズを与えてはいけないし、上司にも強み・弱みがありますから、弱いところは部下としてカバーし、強いところはシナジーがでるように動くとか。それから、上司のさらに上の考え方を理解することも重要ですね。これは経営学以前に、非常に実践的ですよね。


それが逆になっている会社には、必ずもめ事が起こるわけです。「部下が言うこと聞かないんだよ」(笑)と言っているけれど、お互いに悪いのですよ。

社外の高度なリソースを上手く活用する

渡辺 卓哉様


御社の次のマネジメント層になるリーダークラスの方々のワークショップで、「リーダーとは何か」について自主的にまとめてもらいましたね。あの活動は非常に良いものなので、私は弊社内にも「素晴らしい会社は、こうやっているんだよ」とフィードバックしました。

渡辺
あの年齢で、非常に短期間にまとまったのには驚きました。結構、アウトプットの質が高かったです。やはり一人ではなく、チームでやっているがゆえの力という部分もありますが、30代中盤なのに、その年齢の自分のときより理解しているのではないかと思いました。


具体的な行動の指針と言うか、行動の原則まで、「自分たちとしてはこうすべき」と、分かりやすくまとめています。それを渡辺社長が監修されていらっしゃる。

渡辺
実際には、ポイントのところだけで、あまり手はかかっていないです。
実は、少なくともここ2年ぐらい、ドラッカーの話を社内でもするようになりました。自分のバックボーンのひとつではありましたが、アカデミックなイメージがあるので、それまでは控えていたのです。ただ、寺井顧問(前社長)と話をしたり、林さんの主宰されたセミナーで、上田先生(※ものつくり大学名誉教授、立命館大学客員教授、ドラッカー学会代表)とご一緒に食事をする機会もありましたから、「ここまで来たら、社内に還元しないといけない」という気持ちになりました。


私どもは上田先生を2回お呼びして、講演もしていただきました。

渡辺
ですから寺井顧問と私で、社内の中堅層にセミナー形式で簡単な話をしました。それも今回の成果につながっています。「言っても分かるかな…」「どうかな…」というためらいもあったのですが、自分としては非常に実践的で役に立ったのだから、「ダメモトで言ってみればいいじゃないか」と。そうしたら想像以上に吸収が良くて、ちょっと驚きました。やはり、やってみるものだなと(笑)。


今回、まとめられた資料「リーダーのための読本」は、まさにドラッカー的発想と成果という気がします。

渡辺
私もそう思いますね。


同じ内容であっても、普通のトップダウンマネジメント手法で、偉い人に教えてもらうだけでは、定着率が非常に低いです。やはり自主的に取り組んで、自分たちがまとめたものであるというプロセスが大事です。身に付きますし、自主性があるので長持ちします。それを演出するというのは、単なる思いつきではなく、脈々と受け継がれているものなのではないかと私は思いました。
私は寺井顧問から渡辺さんへバトンタッチする前からずっとお付き合いさせていただいて、御社のいろいろな歴史を存じ上げていますが、そのときどきに起こる意思決定は、その前から血管のようにつながっているのだと思います。

渡辺
そうですね。先ほどの話につながりますが、私がアメリカから戻って来たときの問題意識は、アーキテクチャ的なところで、設計や生産技術の部分をなんとかしないといけないということでした。そこで、林さんのセミナーにちょうど2年前ぐらいに参加し、「あ、これをやらないといけない!しかも中国とのコラボレーションが前提で。このへんを中期的には固めよう」ということになりました。ですから戻ってきても、面白かったです。それは当社の歴史的に見ると、一貫した流れの延長にあると思います。いずれにしても、他の選択肢がないですからね。


「やるか。やらないか」という選択肢しかない。すごい選択肢ですよね(笑)。

渡辺
そうです(笑)。アーキテクチャは、林さんのお話を聞いて「バックボーンとしては共通のものがある。だから方向性は間違いないんだ」と感じて、プロジェクトをすぐに始めました。


開発のプロセスも一緒に整備させていただきました。中国の関連会社との連携がきちんとできるようになってきていて、さらにインドもありますから、今後の発展が楽しみです。

渡辺
林さんには技術面のパートナーさんを紹介してもらったわけですが、また彼らも、レベルが高いです。最初のベンチマークを高くすると、いいパートナーさんやリソースとコラボレーションできるというのは、以前からの経験で確信があります。逆にそういうことをしないと上手くいきません。「自力ではほとんど無理だ」とわれわれも分かっているので。


少数の質の良い集団とコラボレーションされるのが得意ですね。それは御社のカルチャーでもあります。

渡辺
この規模のユーザー系IT会社の場合、常にトップレベルの専門分野の人たちと一緒にやらないとこちらも成長しないし、そのほうが早く、上手く進むということが経験から分かっていますからね。ただそれを消化して活用し、成果を出すのがわれわれの責任なので、社内コアのコンピタンスとして、その能力は当然持っている必要があります。

時宜を得て、新しいチャレンジに

渡辺 卓哉様


今後何を目指されるのか、いくつかポイントがおありかと思いますが、最後にそれをお聞きしたいと思います。

渡辺
中期でやろうとしているのは、ヤマハ発動機グループとしてERP(Enterprise Resource Planning)を自分で作ろうということです。生産管理やパーツの部分、まさに会社の「強み」として持とうという分野に関して言うと、今まで全部自社開発パッケージを入れています。ただそれは個別のソリューションで、ERP的になっていませんし、エンタープライズで入れるというレベルになっていません。
ただ材料は全部ありますし、マスタデータの共有がかなりできているので、これをいかにきれいに体系的に共通化していくかということになります。この際ですから、いろいろ昔からやろうとしていたことを、きれいにやりたいなと考えています。
例えばコアの機能、ローカル1,2,3を組み合わせる。そうするとオブジェクト指向、その背景としてのDOAと、まさにDOAプラスOODでやらないといけない。当然Javaのフレームワークですね。環境的にはやっとそういうことができるようになってきています。まだ完全に基盤のところが固まっていませんが、ほぼ見えてきているので、この基盤の上に今までのナレッジや業務の部品をきれいに整えて、一つの建築物、いわばサグラダ・ファミリア的なものを作っていこうということです。ガウディではないですが、どんどんその上に新しいものが載って成長するイメージです。
ラッキーなことに、数年前はインフラや方法論も固まっていませんでしたが、今だとオープンソースでできるような環境になってきたのではないかと思います。次世代を自社のERPパッケージでやるのか、市販でやるのか、あるいはSOA(service-oriented architecture)をどう取り扱うのか、そこを今、決める時期に来ている感じです。われわれは総合的に見ると、そういう将来につながる土台の上に建築できるタイミングに来たという認識で、その構築に向けて準備を進めていますし、一部始めています。それを中国、インドのコラボレーションを通じて、当然、質的なことについてもリソースを確保し、あるいは運用に関するインフラも合わせてつくっていくということになります。
それを逆側から言うと、QMSをもう少し高度化し、統合していく必要があります。
もう一つは人材などの、いわゆる経営管理の仕組みですよね。例のワークショップも含めて、あるいはもう一回教育体系を全部見直していきたいです。まだ試行錯誤ですが、昨年の新人研修では新技術について一年間研修をしました。文系が半分ぐらいいましたが、脱落者は一人も出なかったです。脱落者を出さないということで丁寧にやって、その目標は実現できたので、今年はもうちょっとハードル上げてみようと思っています。


ギリギリのとこで(笑)。

渡辺
ええ、ギリギリのとこでやろうかなと。3ヶ月位は短縮できそうです。
ですから、新しいERPで、新しいアーキテクチャで、QMSと人材開発や経営そのものの見直しという、トライアングルの組み合わせです。それが中期的レベルです。いろいろな環境変化があるので、改革のスピードがどうなるかですが、私は比較的、楽観しています。特にインフラのところが見え始めてきているのでね。


なんとかなりそうだと。

渡辺
ええ。パートナーのCCSも経験があるし、米国拠点もフレームワークそのものは少し違いますが、やはりオブジェクト指向Javaフレームワークを数年前からやっています。今、私自身はよく分からないのですが、なんとなくディテールで確認していくと、「あ、ここはこうやってやればいいんだな」と分かります。今になってみると「USは経験積んでいるな」というのが逆に学習できてきます。
そこで大切なのは標準化ですよね。「標準化を徹底する」と言い続けてはいますが、まだちょっと足りません。「深く考え抜いてないんじゃないの?」という感じがするのです。


また、「標準化読本」を作ればいいですよ。

渡辺
ええ、そうですね。それに今作っている標準化ですが、私はまだ浅いと思っています。ディテールをときどきちょっとずつつまむのですが、「まだここできてないんじゃない」「考えてないんじゃないの」という感じを受けるのです。「もうちょっと深くやらないと本当の意味の標準化はできないんじゃないの」と、直感的に感じます。
ただ、メンバーはポテンシャルとモティベーションも高いので、急速に成長しています。
私はディテールが結構気になるのです。視野が広がると逆に細かいところが見えるのですね。


それは必要だと思いますね。サンプリングにもなりますし。

渡辺
そうですね。「だいたいいいかな」と思ったら、何か足りないことが出てきて、「もう一息、もう一息」という感じです。今の段階なら、もう一息で終わると思っていますが、まだ出てくるかもしれません。いろいろカバーしてきて、標準化でやるべきことはかなり見えてきていますし、昔いろいろ実務でやってきたことが、またここで活きますね。


経営者の方の経験がないと、ITは、単なる金勘定になってしまいますからね。そうではない経営者として、ぜひ頑張っていただきたいですね。ディテールも見て(笑)。

渡辺
そうです。要するに、「気が付くか、気が付かないか」なのですから。最近私はよく「集中して3日でやれ。3日でできなければ1ヶ月経ってもできないよ」と言っています。「できなかったら、別のことを考える。そのときも自分一人で考えるのではなく、答えを持っている人を探して来いよ」と。標準化について言うと、若い人のトレーニングになっていると思います。


おっしゃることは全く正しいと思いますね。

渡辺
結構面白いですよ。新人の日報も毎日見ていますからね。「あ、こういうふうな発想しているんだ!」とか。


どのレベルでつまずいているのか、どこまで考えているかが分かりますよね。

渡辺
分かりますね。これはカリキュラムのほうで改善すべき問題であるとか、「健全に悩んでいるのはいいな」とか、よく分かります。


そうですね。「『問題がない』というのが、一番の問題」ですから。

渡辺
この段階からそういうことを見ておくと、将来に向けてのキャリアプランのイメージがつかめます。今、新人を加速して育てようと力を入れていますから、参考になります。逆にそこが固まると、中堅にフィードバックできますしね。


そうですね。

渡辺
現在取り組んでいるのはそんなところですね。


IT版サグラダ・ファミリアの建築へ向けて、着々と足場を固めていらっしゃるようですね。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

(終わり)

構成:萩谷美也子

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