プロジェクトマネジメント、プロジェクト管理におけるポータルサイト

HOME > プロマネの勘所 > 【林衛の業界探求シリーズ(7)】第三回 自社の開発環境づくりと内製化への取り組み

2009年3月27日

【林衛の業界探求シリーズ(7)】第三回 自社の開発環境づくりと内製化への取り組み

外注によって失われた育成機会

今井様

今井
失敗を体験したとき、私たちが今の若い人たちと違っていたのは、どういうシステムの構成になっているのか、ソフトの中身がどうなっているのか、全部分かっていたということです。自分で作ってきていますからね。その上で、いろいろなベンダーさんに来てもらって開発をしていました。
でも、今は設計のところから外に出しています。もちろん全部チェックはしますが、アイデアを出したり、設計したり、まとめていくのは外部にお任せになってしまう。そこで大事な育成機会が失われてしまい、個人のスキルアップにつながらないのだと思うのです。


そうですね。我慢してでもゼロから開発をする経験をさせて、次にチームでやって、さらに、もう少し大きい仕組み作りを今度パートナーも入れてやるというように、段階的な経験があれば、失敗しても切り替えていけますし、成長もできます。でも今の若い人たちは、そういう機会がないまま来ているのですね。

今井
ある意味では、ずっと右肩上がりで走ってきたために、そういう機会損失をわれわれがさせてしまっていたということです。
私もCADの開発にはマネジメントではなく、一メンバーとして入り、非常にスキルの高いベンダーのSEさんからいろいろ学びました。「ああ、そうか、こういう開発の仕方もある。あ、こういうプログラムのつくり方もある。こういう設計の仕方もあるんだ」とそこで学びとったことが非常に大きな経験となりました。その後自分がマネジメントする立場になって、ベンダーさん、あるいは若い新入社員を使いながら、10年ぐらい開発を中心にやってきたわけです。


私はかなりの期間、いろいろな人の成長をじっくりと見てきましたが、ゼロから自力でやった経験を持っている人は、とても伸びるのです。最初に自分で仕組みをつくって、うまく出来上がったときには「これぞ設計だ」と思ってしまいますが、あとで振り返ると足りないところがたくさんあるのがわかる。成長に伴って見え方が違いますから、段階的に経験してから次のステップを踏むというのが理想です。でも、それがなかなか今の時代できなくなってきていますね。

今井
ええ、その機会をなかなか与えにくくなっています。自分の経験から言うと、最初に開発チームに入ったとき一番勉強になったのは、素晴らしい先輩の作ったプログラムをトレースすることでした。そうすると、「あ、こういうプログラミングの仕方をするとこんなふうになるのか」と、いろいろ見えましたね。よく絵を描く芸術家は先人の絵をまずコピーするところから始めるといいますが。


画家も書家も、まず模写しますね。

今井
全くそれと同じで、システムをつくるのも、素晴らしいシステムを見て、それがどうなっているかを真似していく。それが自分のスキルになって、次の新しい発想がでてきます。そういう経験をある程度若いうちにして、それがベースになって次のステップへ行くという一通りの開発経験をやらないといけないなあと、それは今非常に反省しています。

不況は内製開発へと舵を切るチャンス


今いる部下の方たちには、どういう指導をされていますか。いろいろ悩ましいとこだとは思いますが。

今井
本社も分社も含めて、新入社員としてIT部門に入って来た人は、まず3年は現場経験をさせます。それを最初にやっておかないと、本質的に何が動いているのかが見えないので、体感しないといけないですね。座学ではなく、やはりプロジェクトで実践です。


本当にその通りです。

今井
プロジェクトに入ったり、あるいはトラブルシューティングでもいいのです。ヘルプデスクで受けて、現場で何が起きているか。トラブルに対してどう対応するのか、3年くらいじっくりやらせる。その中で開発に向いているのか、企画に向いているのか、またどういったスペシャリストに向いているのかが、少し色分けができてきます。


その間に資質を見極めるのですね。

今井
そこから次のステップを経験させるのが一番いいのですが、今まではそういうふうには行っていませんでした。よいプロジェクトがあればそこに投入できるのですが、なかなかそういうものがなかったのです。 しかし今、ちょうどこの時期、いろいろ設備投資も厳しくなって、固定費で持っている内製力をもう一度上げる、内製開発をもっとやって行こうということになってきました。一挙両得で、コストダウンにも、若い人たちのスキルアップにもなります。


チャンスと考えていらっしゃるのですね。今までも猛烈に忙し過ぎて、消化するだけで大変な状況でしたから、ペースが変わった節目を捉えて、ある程度割り切って自分たちでやりながら人を育てようと。

今井
ここ2年ぐらい、内製力を上げようというので、部門内でいろいろ活動してきたのです。その一つとして、今のオープン系の開発には、ベンダーさんの開発環境でなく自分たちの環境を持たなければいけないということで、ずっと整備してきました。やっとデンソーの開発環境が整備されました。その開発環境を使って、自前でいろいろなことができるようにしていきたいと考えています。そういう意味では、若い人たちは育っていますが、ちょうど教えるクラスの人間が少ないのです。
これからちょうど景気も悪くなって設備投資ができないので、ユーザ部門にも「ちょっと納期をください」と言えるようになります。「費用がかけられないので、少し納期は伸ばさせてください。その代わり自力でやる分、コストももう少し下げます」と。それをうまく利用して、若い人たちの成長の機会にできないか、これから画策しようと考えています。


それには大賛成です。がっかりしているベンダーもいるかもしれませんが、ベンダーもこの機会に「何をお互いにするべきか」を考えないといけないのでしょう。

中堅層にはオープン系の再教育を


ただ一つ、私がずっといろいろな会社を見てきて、中間のマネジメント層が中途半端にしか育ってないと感じています。
御社では若手の方は数年前から仕込まれて、元気な人がたくさん出てきているようですが、30代後半ぐらいから40代ぐらいの方の活用や意識改革も、もう一つ重要なテーマではないかと思います。その辺はいかがですか。

今井
たぶん30代後半から40代前後の人は、ホストのいろんな仕組みを開発あるいは運用してきたと思うのです。彼らに教育機会というか、自分で新しい技術を習得するチャンスが与えられていなかったのです。


やはり機会が少なかったのですね。

今井
ええ、少なかったと思います。かといって、プロマネやリーダとなると自分の知識の外の範囲をマネジメントすることになりますから、やはり無理ですよね。単純にSEではなくてプロマネなのだからと言っても、ITの場合、品質等を考えたら、プロマネはそういう勘所を押さえられる人間でないとできないと思います。


私もここ20年間、いろいろな試みをしてきましたが、技術とマネジメントの完全分離は無理ですね。勘所というのは勘所だけ教えられないのです。全部の中で勘所を自分が発見する、納得するというプロセスなので、そこを経てない人たちには、また新しい機会を与えて、いろんなことを知ってもらう必要があるのではないかと、私は思います。

今井
今、その中堅どころの人たちにも、新しい開発環境、JavaやCなどオープン系の開発環境の勉強をしてもらっています。好きな連中は自分でやっていますが、きちんと会社全体として、そういう教育機会を与えて勉強をしてもらう。ホストとオープン系は違いますが、ある意味で延長ですから、少し勉強すると分かってきます。


同じノイマン型コンピュータですからね(笑)

今井
ええ。最近は中堅どころの人たちも、心ある人は一生懸命勉強して吸収しようとしています。そういう意味で、新しい開発環境、新しいITアーキテクチャの中で、昔取った杵柄を発揮してもらうということになるのはこれからですね。


そうですね。中堅層の人たちは、少なくとも期間としてはかなりの勉強と経験をしているはずです。体系的にもう一回理解し直して、新しいこれからのアーキテクチャも、若い人同様に勉強してもらうということですね。

今井
新しいオープン系システムの中で、どういう品質問題が起きるのか、どういう設計のミスが起きるのかということは、中堅のほうが経験していますから応用がきき、キャッチアップが早いと思うのです。オープン系にアレルギーがなければ、やっていけるのではないかと思いますし、その教育機会は惜しんではいけないと思っています。

今後、ベンダーに望むこととは

林 衛


今、今井さんがおっしゃっているようなかたちですと、当然ベンダーとの関係も変わってきます。メーカーもあればソフトハウスもありますが、今後ベンダーに期待していることをお聞かせください。

今井
メーカーさんと、開発やコンサルを手伝ってもらえるSIベンダーさんの2種類があると思いますが、メーカーさんには、「企業で使う仕組みは長く使うので、きちんと上位互換が取れるようにしてほしい」と言うのをかねてから要求し続けています。ホストのときのように上位互換をとれとは言わないですけど、今のオープン系はあまりにも上位互換がなさ過ぎます。


ないですね。OSの上位互換性もないですし。互換性があり長期的な使用に耐えるようなアーキテクチャを考えてほしいですよね。

今井
企業で使う以上、そんなにしょっちゅう全部が入れ替わるわけではありませんので、上位互換のあるインフラを提供してほしいと、それはもう口を酸っぱくして言っています。今までSIベンダーさんは、自分たちの開発環境は得意だから、「これだったら早くできますよ」というのが売り文句だった。でも、それをやっているとわれわれは、マルチベンダー、マルチシステム、マルチ環境になって、全部ばらばらになってしまいます。


バラバラベンダーシステムですね(笑)。

今井
競争条件ではいいかもしれないけれど、メンテナンスできなくなる。これは前から分かっていたのですが、やっと「それでは駄目だ」ということで、先ほど言ったようにデンソーの開発標準をきちんと決めて、そのうえでやってもらおうということになりました。だから「デンソーの環境にしっかりとうまく入って開発できますよ」というベンダーさんでないと、今後は成り立たないと思いますね。そういうことにいかに柔軟に対応できるかを求めていく。デンソーの環境と言っても、われわれもオープンな技術をできるだけうまく使っていこうということですし。


特別固有性のある仕組みは考えてないわけですね。

今井
ええ、考えていません。ただ、中の部品はデンソーで準備したものですから、それは覚えていただくと言うか、吸収していただくことになります。しかし開発環境は特別クローズしたものを作っているわけではなく、むしろオープンな環境や、それこそオープンソースをうまく使ってやっていこうということで、今インフラを作っています。
そこに積極的に入ってきてくれるベンダーさんは、歓迎ですね。「でもやっぱり自分たちの得意な環境でやりたい」というのは、これから通用しなくなるでしょう。いろいろな会社さんが、やはりマルチベンダー、マルチ環境、マルチシステムには困っていて、自社の開発環境を持ちたいということを聞いていますから、たぶんいろいろな会社が持つと思うのです。それに柔軟に応じていけるベンダーさんでないと、生き残っていけないのではないかと思います。


分散、多様化してきたものが、もう一回、統一される方向になりますよね。ちょうど事業の動向が一回横ばいと言うか停滞するときに、今後長期的に効率化できるように引き締め直す。ベンダーも勉強して、それに協力してくれないと困るということですね。

IT業界も顧客満足を第一に考えるべき

今井
自動車業界、特にトヨタさんはCS(顧客満足)を大事にしていますし、日本企業はいろんな意味でCSを考え抜いてきたと思うのです。でも、結局今までのITベンダーさんはCSよりもむしろ自分たちが競争優位に立つことが主であって、結局ユーザは割を食っていたところがあったのです。でも、もうそういう時代ではなくなってきていますね。


これまでは、ユーザ側が急いでいるからしかたがなく妥協した部分がありますから。

今井
ユーザ企業が望んでいることに応えていかないと、受け入れられなくなってくると思います。開発のやり方についても、ベンダーさんのやり方を押しつけるのも製品を押しつけるのも、もう駄目だと思うんですね。オープンソースのように、コストもかからなくて品質も良くて、誰でも知っている技術は絶対に使われるようになりますから。


それは普及しますよね。

今井
そういうものをきちんと取り入れてやっていくようなベンダーさんでないと、今後は難しくなるでしょう。囲い込みたいベンダーさんは自然と排除されていくと思います。


自動車業界は今、一時的にグローバル規模で収縮し、構造が変わりつつあります。裾野が広いだけに、ITベンダーにもこれが影響していると思います。

今井
でも、いろいろな意味でコンピュータ化はされていきますので、IT業界は長い目で見れば絶対に伸びるし、全体としては広がっていく業界だと思います。でもやり方は変わってくる。そこに、どうやって早くキャッチアップできるかが問題でしょう。


私がコンサルタントの立場からベンダーを見ていると、一つの技術を獲得すると停滞が始まります。「何でIT業界の人は、常に変えていくということができないのか」と、ずっと感じているのです。自動車やデンソーさんが扱う製品は、競合も激しいでしょうし、どんどん革新しています。それがどうも、IT業界になるとうまくいかない。

今井
ITも新しくチャレンジしているとは思いますが、自動車との違いは昔のものを捨ててしまうことです。さきほど言った上位互換ですね。自動車は新しい機能のものも出してきますが、相変わらず昔のものも動くように部品を補給していきます。そこのレンジがITと自動車では違います。


自動車のほうが長いのですね。

今井
飛行機はもっと長いです。飛行機と比べれば自動車は短いですよ。ITの問題は、ドッグイヤーでどんどん開発していくときに、開発が先行してユーザの利益はあまり見てないことです。ユーザもそんなに愚かではないので、そこを見ないIT企業はだんだん成り立たなくなってきているのではないかと思います。


幸い、環境変化が淘汰や統合を起こしてくれるので、なくなってしまう会社もあるかもしれない一方で、立派に生き残って貢献できる会社も、たくさんあると思いますし。

今井
マイクロソフトがXPのOSの延長をするのも、そういう流れで出てきたのだと思います。今までコンシューマにしか向いてなかったIT業界が、だんだん企業にも向いてくる、ビジネスのほうに向いてくるということになると、「長く使いたい」というニーズを受け入れざるを得ない。それがやっと分かり始めているのではないでしょうか。


いいことですよね。

今井
IT業界が成長していくステップではないかと思います。


マーケティングと宣伝であおれば、個人は飛びつきますが、企業はそういうわけには行きません。

今井
そう変えられませんよ。変わることによって、生産性が上がるとか、新しい製品ができるとか、ユーザの求める付加価値に寄与してくればいいのですが、そういう付加価値は生まないのに、ベンダーさんの事情で「新しいものしかメンテナンスしません」と昔のものを切り捨ててくる。革新しようと思ったら切り捨てざるを得ないでしょうが、それがあまりにも激し過ぎます。


現状で何も困ってないユーザに迷惑をかけます。

今井
ホスト時代はクローズな世界でしたが、上位互換ではすごく信頼性もあり、システムとして長く使えました。今、オープン系でサーバが古くなったから変えようと思うと、OSをバージョンアップしないといけない。そうするとミドルウエアをバージョンアップする必要があり、その上のアプリケーションをつくり直すことになります。


動かなくなりますからね。

今井
あるいは、テストし評価し直さないといけない。単にハードだけを変えたいのに、いろいろやることが出てきてしまいます。コスト構造で言うと、ハードは1割ぐらいです。その10倍近く、アプリケーション代や人工にかかわるコストを負担することになります。それがやっと分かってきました。
ちょうどこういう時期なので、われわれも何にどれだけ原価が掛かっているか。IT部門の原価構造を見ています。そうするとハードの費用は薄くなっていって、最終的には人件費です。


人件費とソフトウエア費用の固まりでしょう。

今井
ソフトウエアも、もともとは人件費ですからね。結局その費用にきちんとメスを入れてやっていかないといけない。その中で、自分たちでうまくコントロールできて、自分たちの苦労がスキルアップにもつながる内製をやっていく必要があるだろうということになったわけです。ITにとっても投資の厳しい時代だからこそ、そういうことがしっかり見えてきました。
「一回しっかりと贅肉を落としてみよう」というタイミングだったのです。そこにこの不況がきて、なおさら決断しやすくなりました。今までは「とにかくここまでにやらないといけないんだ」というユーザの納期に追い立てられて、そこに間に合うやり方でやらざるを得なかった。そこはやはり、スキルを内部留保するのではなく外に出してしまったということも含めて反省すべきだと思います。いえ、反省はしていたのですが、なかなかそういうことをユーザ側に言えなかったのです。


これから世界全体でペースが変わるでしょう。その間にうまく仕組み作りができて、5年ぐらいたつと、日本の企業が間違いなく浮上していると思います。

今井
ですから、この機会にぜひ、われわれに充電する期間を与えてほしいですね。

(次回に続く)

構成:萩谷美也子

| トラックバック[0件]

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://www.promane.jp/blog_manager/mt-tb.cgi/633

↑ このページの先頭へ